ジュンウォンさんの次はテギョンさんか


ミナムは心の中で呟きながら階段を降りた。




ジョンソクは幼いミナムとミニョをジュンウォンが慰問に訪れる施設にまんまと入所させた。

ミジャの元での生活から比べれば天国にも思える施設での生活はミナムに助けてくれたジョンソクに恩義を感じさせていた。


月に一回慰問に訪れる財閥の御曹司であるジュンウォン。

何も知らないミニョは子どもたちへのプレゼントを届けに来るジュンウォンを『王子様』と呼んで無邪気に懐いていた。


誘拐が実行されたあの忌わしい日


『ジュンウォンを裏庭に連れ出せ。』


ジョンソクから連絡があり、ミナムは言われるがまま慰問に訪れたジュンウォンに近付いた。


ジョンソクはミニョにやらせろと言っていたがミナムには妹にそんなことはさせることは出来なかった。

ミニョの服をこっそりと持ち出しミニョの振りをしながら一緒に遊んでと言って戯れつきながらジュンウォンを裏庭に誘った。

懐いているミニョだと思い込んでいるジュンウォンは怪しむでもなくミナムについて来た。


木陰から飛び出したジョンソクに薬を嗅がされ意識を失ったジュンウォンが連れて行かれる様を目の当たりにしたミナムはすぐさま踵を返し施設の建物の中に逃げ込んだ。

自分の部屋で布団を被りガタガタと震えていた。部屋に戻ったミニョが話し掛けて来たがその日一日ミナムは布団から出ることが出来なかった。


子どもとはいえ誘拐の共犯になってしまったミナムはそれからもジョンソクに逆らえないまま大人になった。

そして、またジョンソクの指示でA.N.JELLに入り込んだ。ジョンソクが飲み屋で飲んでいたマ室長を上手くたらしこんでミナムを売り込んだおかげだが


誰も居なくなったエントランスホールに降り立ったミナムはジュンウォンとテギョンが出て行ったガラス扉をぼんやりと見つめていた。







キングダムホテルの中にあるフランス料理店でジュンウォンとテギョンは向かい合って食事をしていた。


「どうだった?口に合ったか?」


終始無言で食事をしていたがデザートを食べ終わった頃ジュンウォンがテギョンに話し掛けた。

誘拐当時のことを話そうと決心はしたものの、どこまで話せばいいのかテギョンはまだ迷っていた。ジュンウォンが話を切り出さないのをいいことにただジュンウォンとの時間を嬉しく思っていた。

秘書によってきちんとテギョンのアレルギーのことが伝えてあり、安心して食事が出来たこともありテギョンはいつもよりも穏やかな表情で頷いた。


「この後、うちで話せるか?込み入った話になるだろうし、あまり他人に聞かれたくないからな。」


とうとうジュンウォンが話を切り出した。

自分の心の内を隠すように皮肉めいた口振りのジュンウォンに、テギョンは心を決めもう一度頷いた。


ホテルを出るとジュンウォンの車が待っていた。


「ご自宅に戻られますか?」


乗り込んだ二人に向かって運転席に座る秘書は問いかけた。


「そうしてください。我々をうちに送り届けてくれたら今日の仕事は終わりです。

久しぶりにゆっくりしてください。」


自分より年上の初老の秘書を気遣いながらジュンウォンが話している。

その様子をテギョンは羨ましく思っていた。


ジュンウォンとテギョンの共通点は親と疎遠だということだ。

だが、ジュンウォンにはテギョンのような孤独の影はない。


ジュンウォンの母は他界しており、父親は海外在住だ。だがこうやって身近に秘書のような存在がいる。

テギョンの母は生きているがとても親子とは言えない関係だ。自分を捨てた母のことを思うとまだ胸が痛む。母を亡くしたジュンウォンの方が幸せだと思えるくらいだ。


秘書が顔の角度を変えテギョンに向け問いかけた。


「テギョン様。お食事は美味しく召し上がれましたか?」


「アレルギーのことを伝えてくださってたので美味しく食べられました。」


テギョンが、はにかみながら答えるのをうんうんと頷きながら秘書はテギョンに笑顔を向けた。

ジュンウォンに見せる慈愛の表情をテギョンにも向けてくれる。

ジュンウォンに秘書も赤の他人だが、この二人とのひと時を心地良く感じている自分にテギョンは驚いていた。



今朝も来たマンションが何だか違って見える。

ジュンウォンのマンションに二人を降ろすとどうぞごゆっくりとテギョンに言って秘書は走り去った。


ジュンウォンの後に続いてマンションをエントランスから入る。

コンシェルジュ達からの挨拶を片手を上げていなしたジュンウォンはエレベーターに乗り込んだ。


「気が付いたか?

コンシェルジュ達が囁いていたぞ?お前に気付いて」


悪戯っ子のような表情をジュンウォンは浮かべていた。


「俺の部屋に来るのは叔母か秘書くらいだ。そんな俺がファン・テギョンを連れて帰って来たんだ。

まあ、彼女たちが驚くのも無理はないな。」


「そうなのか?恋人とか来ないのか?」


テギョンはずっと気になっていたことをジュンウォンに聞いた。


「恋人?見合い相手なら叔母が散々連れてきたが、恋人はいないな。」


ジュンウォンはさも重要なことではないと言うように気のない返事をした。


「それにプライベートな空間に他人が来るのは好きじゃない。」


ジュンウォンが呟いた。

そんなジュンウォンがテギョンのことは普通に部屋に招き入れている。

今日だってジュンウォンに請われてここに居る。

そのことに気づいたテギョンはほんのりと顔が熱くなるのがわかった。

多分赤らんでいる顔をジュンウォンに見せるのが面映くなったテギョンはジュンウォンから顔を背けガラス張りのエレベーターから見下ろせるマンション内の庭園に目を向けた。