寝室からは、絶え間なくムギョルのあえ ぐ声と
男たちの笑い声が聞こえてくる。
ムギョルが自分の代わりに慰み者になってることに耐えられなくなったミナは、
部屋を出ていこうとした。
「お嬢さん、どこに行くんです?」
目を細め探るような視線を向けた社長に
瞳を泳がしたミナはトイレを指差した。
トイレに入ったミナは
迷った挙句、隠し持っていた携帯を取り出し、
震える指でスタの番号を呼び出した。
ワンコールで電話はスタに繋がった。
「もしもし…なんだ?」
「スタ…どうしよう…私…私…」
電話に出たスタに小声でミナは戸惑いながらも喋りだした。
「どうしたんだ?落ち着いて話せ。」
スタの落ち着いた声に
ミナは早くなっていた動悸が少しおさまってきた。
「坊やを攫った社長に、ガンペが捕まって…
呼び出された坊やも…」
ミナは泣き出した。
「何でお前が?今、何処にいるんだ?」
「…ごめんなさい…
社長が二人を別れさせてくれるって言うから…
ガンペを私のマンションに呼び出したの…
そうしたら…黒ずくめの男たちがマンションに入ってきて…
どうしよう…
このままじゃガンペが殺されちゃう…
それに坊やも…」
ミナは言葉を詰まらせた。
「なにやってんだ!お前は!」
スタは、ミナのしでかしたことに腹を立て怒鳴った。
怒鳴りつけた後、今ここで叱っても仕方ないと
冷静になる為、大きく息を吐き出した。
「…とにかく二人は今は無事なんだな?
社長たちは、何人いるんだ?」
ミナはカラダを小さくして呟いた。
「社長をいれて五人…
ガンペは縛られてる…坊やは…」
事態が把握できてきたスタは
ミナに言った。
「もういい。わかった。
お前は、出来ればガンペを縛る縄を切れ。
あいつなら、手が自由になれば何とかするだろう。」
ミナはスタの言葉を聞きながら、
うんうんと自分に言い聞かせるように何回も頷いた。
「俺も何とかしてみる。
また、連絡が出来るようにしといてくれ。」
「うん…」
ミナが萎れた声で呟いた。
「無事助けてやるから。
だが、その後は覚悟しておけよ。
俺は無茶苦茶怒ってる。」
「わかってるわ…」
ミナは電話を切った。
溜め息を一つつくと再び携帯をポケットに忍ばせ、
トイレを出てリビングに向かった。
寝室から聞こえていた声が止んだ。
寝室の扉が開き、
意識を失ったムギョルが男たちに運ばれて来た。
ガンペに酷い有り様のムギョルを見せつける為か、
ガンぺの目の前にムギョルは寝かされた。
横たわるムギョルは、
かろうじて白いシャツを羽織っているだけだった。
汗なのか涙なのか濡れた頬には
乱れた髪が張り付いていた。
シャツから覗く白い肌には凌辱の痕が赤く散っており、
抱き締めることも叶わないガンペは
叫び出したいのを堪えるのに必死だった。
「おやおや、ムギョルは眠ってしまったようだね。
それとも壊れてしまったのかな?」
社長は、ガンペの心を責め苛むような言葉を呟き、笑い声を立てた。
唇を噛むガンペの前におずおずと毛布を持ったミナが立った。
「…床に直だとムギョル君が寒いだろうと思って…」
ミナはガンペの視線を避けるように顏を背けながら呟いた。
ミナはムギョルの傍らに座ると、
毛布と一緒に持って来た湯で濡らし絞ったタオルで
労わるように優しく汚れたムギョルのカラダを拭った。
ミナの目からは涙が零れ、
小さな声でごめんねごめんねと何度も繰り返しながら
ムギョルのカラダを拭いていた。
拭き終わるとミナはガンぺの為に用意していたスウェットを
何とかムギョルに履かせた。
そして起こさないように、ふわりと毛布を掛けた。
ガンペは黙ってムギョルの世話をするミナを見ていた。
冷たい瞳に射すくめられ
ミナは居た堪れない気持ちだった。
けれども、やらなければならないことがあった。
ミナが後ろを振り返ると
社長はうたた寝を始めていた。
ダイニングテーブルの処にいる男たちも眠そうだった。
時刻は深夜の一時を回っていた。
今がチャンスだと思ったミナは
ムギョルに毛布がきちんと掛かるように整える振りをしながら
ガンべの縛られた後ろ手に剃刀を握らせた。
「こんなものしかなくてごめんなさい…
何とかこれで縄を切って…」
男たちに気付かれぬように小声でミナは囁いた。
「おい、なにしてる?
こっち来てコーヒーを淹れろ。」
様子を見に来た男に声を掛けられ、
ミナは慌ててキッチンに向かった。
ミナのしたことは許せるものではなかったが、
彼女の精一杯の償いなんだろう。
ガンペは剃刀の刃を何とか縄に当て、
思うように動かない手を動かし出した。
電話を切ったスタは考えを巡らせていた。
素人の自分が行ったところで
三人を首尾良く助け出せる保証はない。
考えた挙句、スタは持ったままだった携帯の通話画面を開けた。