夜中にスタが目を覚ますと、
腕の中で眠っていたはずのムギョルがいなかった。
起き出してリビングを覗くと、
シーツだけを巻き付けたムギョルが
テラスでマンションの下を覗き込んでいた。
「寒いだろ?中に入れよ。」
後ろから肩を抱かれて、
ムギョルは少し驚いたようにカラダを震わせて、
横に来たスタを見上げた。
「…。なんか飲みたいと思ってさ。
勝手に水を飲んだ。」
手に持ったペットボトルを振りながら、ムギョルは答えた。
先程までの妖艶な顔は影を潜め、
少し寂し気なムギョルが心配になったスタは
ムギョルに問いかけた。
「どうした?
さっきまでの勢いは何処へいった?」
暫くの沈黙の後、ムギョルが口を開いた。
「あんたの事が心配になってさ…
ホントに海に浮かべられちゃったら…」
スタも少しばかり不安ではあったが、
ムギョルを元気づけるように言った。
「もう一度、お前を抱けたんだ。
殺されても本望さ。」
ムギョルは、薄っすらと笑うと呟いた。
「俺、あんたの気持ちに漬け込んだ。
俺の我儘に利用したんだ。最低だ…。」
スタは、やんわりとムギョルを抱き締めた。
「それでもいいって。
ほら、カラダが冷え切ってる。
ベッドに戻れ。」
頷いたムギョルは、
寝室に向かって歩いていった。
スタは、リビングから煙草を持って来ると、
火を付けテラスに出た。
マンションの下の通りを見下ろすと、
見慣れたガンぺの車が停まっていた。
「元気がない原因はあれか…」
煙草を揉み消したスタは溜め息をついた。
「ムギョル…他の男を気にしながら抱かれる感覚ってどんななんだ?」
スタは寝室の扉に向かって呟いた。
ベッドに入ると、
スタは、シーツに包まったまま横たわるムギョルに話し掛けた。
「お前、後悔してるだろ?」
ムギョルは、首を横に振った。
「あんたと寝たこと?後悔してない。
後悔してるのは、あんたを巻き込んだことさ。」
ムギョルは、目を閉じたまま答えた。
「俺は、嬉しかったけどね。
ムギョルの心がぶつかってきたみたいだった。」
ムギョルは薄っすら目を開け、微笑んで答えた。
「あんたが、俺の心が欲しいって言ってくれたこと…
実は少し嬉しかったんだ…
みんな、俺のカラダを欲しがるけど、
心はどうでもいいみたいだからさ…」
少し照れたように呟くムギョルに込み上げる感情を抑えられず、
スタは、ムギョルを抱き寄せた。
「お前、可愛過ぎ。
この歳で男に嵌るなんてなぁ。
お前の欲しい腕じゃないだろうけど、
今日は抱いててやるから、ゆっくり眠れ。」
ムギョルはスタの優しさに戸惑った。
ガンペへの気持ちを知った上で
ヤケになった自分を受け止めてくれた。
こんなスタを死なすわけにはいかないと、
ムギョルは、考えを巡らせていたが、
冷えたカラダには、スタの体温が心地よく、
いつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝、撮影があるから一緒に行こうと言うスタに、
とりあえず帰ると断わりを入れたムギョルがマンションから出ると、
車に寄り掛かりながらガ煙草を吸うガンペがいた。
吸殻を捨てると、ムギョルの前までゆっくりと歩いてきた。
ガンペは、ムギョルの顔をじっと見た後、
その頬を打った。
「ふざけるのもいい加減にしろ。」
ムギョルは顔を上げられなかった。
「素人を巻き込むな。
会長に知れたらどうなるかわかるだろ。」
無言のムギョルに、
ガンぺは苛立ちを抑えながら言った。
「お前は、へジュの店で飲んでいたことにしてある。
話、合わせろよ。」
言うと、ガンぺは車に乗り込んだ。
動けずにいたムギョルに一瞥をくれると、
「早く乗らないと置いていくぞ。」
ムギョルは、顔を上げた。
何か言いたそうな顔をしたが、
直ぐにまた俯き黙って助手席におさまった。
走り去るガンぺの車を、
マンションのエントランスで、
二人の遣り取りを見ていたスタが見送っていた。