朝から雨が降ったり止んだり。
寝袋だけでも乾かしたかったがそれも叶わず。
ずぶ濡れのテントをたたみ、
朝の9時半過ぎ、走り始める。

雨は次第に霧雨になり、やがて止んだ。
しかし今日は、徹底的な、向かい風。しかも強風。
通常なら時速9から10マイル(14キロから16キロ)は出せる。
道の状態、勾配にもよるが平地なら平均それくらい。
それが必死にこいでも時速6マイル(9.5キロほど)がやっと。
しかも風にハンドルをとられる。自転車がガタつく。
車が猛スピードで追い越してゆく。何度も危ない目に遭う。
イギリスの田舎道を走っていると、動物の死骸に一日数十匹単位で遭遇する。
ウサギ、リス、ハト、カラス、鴨、ちょっとゴージャスな鳥、ハリネズミ、猫、鹿まで。
みんあ轢かれてしまったのね。

例えば、全くの荒野、一面の畑に一本の道が続く。
そんな風景に憧れていた。
しかしここではそれは、風を遮ってくれるものが何もない事を意味する。
ハンドルはとられる、つかれる、スピードは出ない。
その結果目的地に到着が遅れる、17時を過ぎてインフォメーションが閉まる、キャンプ場が探せない、
日が沈んで、途方にくれる。
悪い方向にばかり考え、それに恐怖してしまう自分の悪い癖。

一度転倒しかける。
突然リアルなウサギの死骸が出現したのだ。
ハンドルを切ってしまって、バランスを崩した。
そこに猛スピードのトラック。
間一髪。

ダメだ、危ない。
死骸をよけてはダメだ、踏み越えて進まないと。
悪いけれど、まだ死ねない、そう思った。
まだまだやりたい事が、たくさんある。 
暖かいコーヒーが飲みたい。
またみんなと天狗で飲みたい。
家族と温泉にも行きたい。
タイにもラオスにも行きたい。
ミンサにソウルを案内してもらいたい。
自分の命は、安くはないと、自分では思わないと。

一年前、俳優を休止して大阪に帰って来た時、すぐに旅行に出るという選択肢もあった。
その時想像していた旅は、10回やればその内の一回は生きて帰って来れないような、そんな旅だった。
ヒッチハイク、チベットも自転車で回るつもりだった、本格的な登山も考えていた。
命を失う事を怖れるよりも、それを怖れるあまり、何かを失ってしまう事をより怖れていた。

一年が経って、少し変わった。
軟弱になったのかもしれない。
ヒヨったのかもしれない。
しかし極限まで追いつめないと見えないものなら、それは見なくてもいいのかもと思い始めた。
10回行っても10回帰ってくる、そんな旅行。

空を恨みながら。
風に叫びながら。
SPALDINGに到着。
17時まであと5分。
インフォメーションセンターに駆け込み、キャンプ場の場所、電話番号を聞く。
電話で確認すると、テントもOKとのこと。
よかった、、、
スーパーで買い物をして、キャンプ場へ。
テントを建てる。やはり濡れている。

本日の走行距離、46.558マイル。74.5キロ。
ボロボロ。
もうイヤ。
頭の中で色々な言い訳を組み立てていた。
うまい言い訳を考えつく、それをきれいな言葉で装飾するのは得意中の得意。
明日走るのかどうか、天気次第だななんて呟きながらも、だんだん傾いて行った。