ドルマ・ラ 

カイラスコルラ中、最高高度。5688m。
この峠で祈る事で、これまでの「犯して来た全ての罪」が帳消になるという。

僕は祈らなかった。

これまで28年間、食べたもの、飲んだもの、会った人、話した人、愛した人、裏切った人、僕を裏切った人、ついた嘘、演じた役、書いた脚本、煙草の傷まで、全てが今の僕を作っている。あの日、待ち合わせに行かなかった事も、あの指輪をなくした事も、あの人を死ぬほど憎んだ事までも、今の僕を形作っている。

こんな自分を、嫌悪しながらも僕は愛していて、そして僕を愛してくれる彼女、友人、家族がいる。

これからの長い道のり、抱えて行くには重すぎる罪でも、
それでもそれらを、こんな峠で置いて行こうとは、僕は思わない。

 

 

 

 

ピクニック 

ドルマラを越えると、川沿いの道をダラダラと歩く。
カイラスは見えないし、景色は単調。そしてそれが20キロほど続くので、かなり疲れる。

途中まで道は平坦だったが、ダルチェンの町に近づくにつれ、アップダウンも多くなる。何度も緩い坂を下り、また登る。

あそこにまた坂が見える。
時間的にはそろそろ集落が見え始めるはず。
あの坂を上れば、夕飯時の民家が見えるだろうか。

体はくたくた、足も痛い、ジーパンも破れた。

そうだ、あの坂を上った所でピクニックしよう。
村が見えなくても、まだ先に峠が続いていようと、座るに手頃な岩がなくても、あの坂を越えたら、バックパックを下ろして、足を伸ばし、お茶を飲んでお菓子を食べよう。

何にもない峠でも、特別でもない、名前さえない峠でも、
あの坂を上ったら、きっと僕はピクニックをしよう。

 

 

 

 

 

 

我的コルラ 

無事、コルラを終了しました。
たくさんのチベット人、同じく巡礼者に励まされ、コルラ完了。

僕のコルラは、面白い。
テントやコンロ、3日分の食料を背負って、チベット人のポーターにスピードでは負けなかった。
チベット人にはチベット語で、
中国人には中国語で、
韓国人とは韓国語で、
西洋人とは英語で、
そして日本人とは日本語で、ちゃんと話して笑顔を交わせる。

少年僧に聖地スポットを聞いて、
瞑想用洞窟では、とりあえず目を瞑ってみて、
尼さんにお茶をご馳走になって、
テント商店でコーラを飲んでプシューとする。

僕のコルラは面白い。
これならきっと僕の旅行も面白いんだろう。
そしてきっと、僕の人生も、きっと面白いのだろう。

2006年6月2日、午後7時10分すぎ、
カイラス山、カンリンポチェ、我的コルラ(僕のコルラ)完了。