だいぶ長い期間放置していました^^;
かなり昔の出来事の記憶を辿っているので、集中力が散乱だと思い出せず
意識を整理する時間を労していました
また適度になりますが更新していきます



  

スタントマンになってみませんか


と、ワダさんにヘッドハンティング?を受けて以来、
気持ちが二転三転する日々が続いた


格闘技の競技者であったものの、それはあくまで趣味の範疇
社会人として自分の身を成り立たせてる立場ももちろん別にあった


当時の自分の本業はイベント業者の経営者

単純な動機で、
自分のやってる競技のリングを作ったり会場設営を手伝ってるうちに、その手際を身につけてしまい
そのうち自分で会場を抑えてイベント自体を企画したり、
現場監督としてスタッフを仕切ってみたり、
人材をかき集めて他の業者に派遣したりするようになって

それなら自分で会社を立ち上げちゃおう!
ということになった


「経営者」とか「社長」なんて響きはガラに合わなかったけれど^^;
誰かに雇われるよりも自分の都合で動ける分、だいぶ融通が利いた




仕事が仕事を呼んでフルブッキングな月日
たまにまるで仕事がない月間もあったけれど、そういう時は自分自身を他の会社に派遣したりしてた


大もうけして会社をもっともっと大きくしてやろう!
なんて野望は全くなく(笑)

自分が生活できる日銭が稼げれば、あとは好きなシュートボクシング三昧だあ

と、それなりに満たされていた生活だった




スタントの世界

もしも、今の仕事も続けながら芸能の世界で成功してしまってスターになってしまったら、
関わりある今の人間関係に迷惑がかかるんじゃないか?


なんて勝手に心配して、散々一人で空回りしてた(笑)



「まあ慌てないでゆっくり考えて!。。稽古場にはもう毎週必ず来てくれるよね?」

ワダさんからそんな言葉をもらってちょっと落ち着いた



考えても見たら、そんな自分の人生


本当にコレがやりたい!


というものや場所に、自分の意思でいなかったような気がする



「それはそれで、いろんな経験を積めたんじゃない!立派なことです!!」

ワダさんはきっぱりそう言う

「じゃあ、今度の私からの話は自分の意思で決めるのでしょう?よく考えて人生の選択をしてみよう」




そんな話を聞いてるうちに、仕事だ稽古だ、ということを抜きにして
この人ともっと性根を据えて付き合ってみたい、と思うようになっていった




しまい込んでたトレーニングウエアをリュックに詰め込んで稽古場へと向かった
一番乗りでワダさんが来るのを待ち構えて、開口一番告げた


「お願いします!俺を弟子にして下さい!!」
「。。。!!弟子ってあなた(笑)」
「スタントやりたくなりました!。。そういえば子供の頃大好きだったんですよ!」
「??え?」
「ブルース・リーとかタイガ-マスク。。。あと仮面ライダー。。」

「。。ぶわっはっはっはっは~~」



思いっきり身体をのけぞらしてワダさんが笑う
こんなにこの人が笑うのは初めて見た



「。。じゃあ改めてよろしく!頑張りましょう!!」


差し出された手を握り返しすと
もうひとつの手も重ねて両手で握手してきた









角膜再生の治療のための、
定期的な通院は続いてた


半月に一度、平日に半休を取って、
救急救命センターのあった大学病院へと通っていた



大きな病院なので、治療以外の受付や精算で待つ時間の方が長くなることが多い

段々、病院内での時間の使い方にも慣れていってしまった
食堂や喫茶店もよく利用した


「。。!!あら?」

テーブルでふんぞり返ってたら突然声を掛けられた
「!!!」
思わず姿勢を正す

最初に担当してもらったアイカワさんだった


「。。どうですか、その後は?」
「相変わらず見えないまんまですけれど。。でも見た目は綺麗に治ったでしょ^^」
「そうですか。。。」



ちょっと曇った表情をしたドクター
なんだか申し訳ない気持ちになった


時間が気になったので、時計代わりの携帯電話を取り出した

「あ!」
「??んぐ?」
「私のと全く同じ機種ですよ!!」


ドクターもポケットから携帯を取り出した
色もデザインも自分のと同じ物を手にしていた


「似た様な趣味なんですかねー?」
「でも俺全然使いこなせてないですよ^^;メールの返事は電話でしてるし(笑)」
「あはは、せっかくなんだから使い方覚えましょうよー!!」


立って話していたドクターが対面の椅子に座った
自身の電話を操作して、使い方をレクチャーしてきた

「私の番号教えますんで、メールしてみてください!」
「??え?」
「同じ機種だから電話番号だけでメールができるんですよ」
「。。わかりました、やってみます!」


テストで適当なメールを打ってみた

「あ、ちゃんと届きましたよ!オッケイです、あはは^^」
「ありが。。」
「!!ああ!わたし行かなくっちゃああ~!!」
「???ええ、ああ。。。」




じゃあ、お大事に~

と、バインダーを手に取りドクターは立ち上がって去っていった



意外と饒舌にしゃべる人だったんだな。。。



携帯の画面に残った、
彼女の電話番号をしばらく眺めていた
「では、まず受身の練習!」
「はい!!」

マットじゃなくて床で直接前転から入る練習生の方々
号令も何もない、それぞれが思い思いのタイミングでテンポで動作を繰り返す


今までのジムでの規律正しきトレーニングの雰囲気とは違う
各自が自分で考えて、工夫をして取り組んでる様子が伺える


ワダさんの意識が充満してるのがわかった


自分も見よう見まねで受身を取ってみた

誰も教えてなんかくれない
今まで自分がやってきた、
投げ技に対する、手を使って「バシーン!!」と地面を叩くような受身を誰もやってない


丁寧にゆっくりでんぐり返しをして、
背中と地面を仲良しにしてあげようとしてるような意識が感じられる


それを見て同じようにやってみた




続いて二人一組になって、手を取り合って決め合う体術の稽古
以前教えてもらったアームロックのレクチャーのひとつだった


ワダさんは徘徊しながら時々アドバイスをしてる
以前セコンドにも付いてくれた、お弟子さんもアシスタントとして混ざっている



黙って稽古に参加しながらも、胸の内の意思が急激に変化してるのを感じた


引っ張り出されてやってきたスタントの研究ワークショップ
つれてこられたから、なんて曖昧な意識で参加してなかったか?
不真面目にやってる人なんて誰もいないこの場所で、その気持ちは失礼でしかない

みんな自分で考えて、
自分の能力と向き合って各自で工夫をして取り組んでいる

号令で指示で、
誰かの命令で動いてる人なんてひとりもいない



自分で動かなくっちゃ何も始まらないんだ



この稽古場に限らず、今の自分自身の人生にだってそう言える。。。





久しぶりの運動で、重く感じてた身体が
ちょっとずつ軽さを取り戻してゆくのを感じた




最後は刑事ドラマのアクションシーンのような現代殺陣の技斗のトレーニング


 今日初参加の方が主役をやりましょう!


とのことで、いきなり芯をやることに


目が見えないけど大丈夫だろうか。。。



そんな不安もあったが、競技と演技の違いをすぐに理解できた


「いやあ!」
とか、声がかかるので自然と反応できる
目線を送るとちゃんとリアクションしてくれる

腕を取ればくるん、と回転してくれて
パンチや蹴りを放てば大げさに倒れて受身を取ってくれる




気が付くと、大量の汗を流しきっていた




稽古が終わると、隣で着替えてる人が
「何かスポーツやってたんですか?」
と、聞いてきた

「シュートボクシングって言う格闘技をちょっと。。」
「ああ、やっぱり!僕にも今度教えてくださいよ!」
「。。ええ。。いいですよ」



みんなでご飯食べに行こう、とワダさんが声をかけている
運動着の入った大きなをリュックを背負った若者がゾロゾロと歩き出す


普段の生活の中で、切り詰めてやっと作った時間
その中で、わずかでも今よりも向上を求めて、みんな稽古に取り組んでいるのだろう


稽古場であると同時にここは社交場でもあるのかな?


満面の笑みで
「早く行きましょう♪」
「呑みのほうがいいですよ(笑)」
とか、がやがやと言っている



いつも来てる、
というお好み焼き屋の二階の座敷を借り切って上がり込んだ



「純さん、こっちこっち!」
ワダさんに対面で座ることを共用される




「どうでした?今日の稽古は?」
「久しぶりに動けて気分いいです!!」
「そうですか^^」
「競技とはまた違いますけどね。。でも色々発見もありました!いい経験です^^」


「純さん。。実はね」
「。。んぐ??」


「私はあなたを口説こうと思ってたんです」


食べていたお好み焼きがのど元で止まる感覚を覚えた



「どうです?。。。私と一緒に芸能の世界で働いてみませんか!」
「。。。げっほおお!!!」




思わずお好み焼きを噴出してしまった(笑)



あの時の
ワダさんのまん丸な目がいまでも忘れられない^^;

唐突なワダさんからの電話に、戸惑いながら携帯を握り締めた


「。。実は。。今日ジムのほうを退会してきたのですよ」
「。。そうなんですか?」
「ええ。。ちょっと仕事のほうも忙しくなるので。。それで挨拶を、と思って」
「。。。わざわざありがとうございます」
「で、今日ジムでもお会いできなかったので。。一度一緒にメシでも食べに行きませんか?」
「。。。。。」
「??元気ないですねえ?」


ワダさん、実は。。。

思わず一気に吐き出してしまった
ほんとうはもうちょっと気持ちも落ち着けてから会いたいと思ってた
でも、真っ先に連絡をしてきたのがこのワダさんだった


電話の向こうでただ黙って話し終えるのを待っていてくれた




「。。。そうですか。。それなら尚更食事の約束をしときましょうよ!」
「。。え?」
「いやあね、私の方も実はあなたに話したい本題があるのです」
「。。。。」
「その様子じゃあきっと身体もなまってますね^^また私の稽古場にも来てみませんか?」
「。。え。。あ、いや。。」
「まあ、ちょっと位いいじゃないですか!是非来てくださいよ!」



引きこもってる自分を無理やりにでも連れ出そうとしてる意識
そんなワダさんの勢いに飲み込まれる形で出向くことになった



「まずは稽古場で!その後に約束のメシに行きましょう♪」
「。。じゃあ見学に行きます」
「いいや!あなたも参加するのですよ、純さん!!」


正直、
身体を動かすのが怖くて仕方なかった
絶対に思うように動かない

その思いが振り切れなかった




指定された場所は以前とは違った

休日に開放されている民間の学校の体育館




運動用具を詰め込んだ大きなリュックを背負って中に入る




50人くらいの若い人たちがストレッチをして準備していた
胴衣ではなく動きやすいジャージ姿



「。。ワダさん。。ここって?」
「スタントスクール。。みんな役者さんたちです」
「。。んぐ??」

「。。これが私の本業。。。今日は技斗のトレーニングをするんです」



??

俺は何でココにいるんだろう。。
全く状況が見えてこない



ワダさんの真意に、その時は気がつかなかった




身体がなまって、
筋力が落ちてしまうことが不安で仕方なかった


治療が落ち着き始めた頃、

自宅でストレッチとジョギング、
大きなストレスがかからない程度の
加圧筋トレを行うようになった


身体を動かして汗をかくことで、視力の不安も和らいだ


なんとかやれるんじゃないか。。

ジムでの合同練習にも参加しよう!



気分は高揚していった





その想いは、瞬時に砕かれた。。。





  久しぶり~♪


と、のほほんと顔を出した練習場


準備運動
シャドウでのフォームチェックなど順調に消化

息切れもなく、かすかな自信も沸いてくる



二人一組になっての攻守受け返しの稽古に入ると、
そこでもろに視力の障害の重さを思い知ることになった。。。


距離感がつかめず、
まるであたらないパンチ
ずれるディフェンスポイント


「近い近い!!。。間合い取れてないじゃん!!」

事情を知らないパートナーは容赦なくダメを出しまくる



一生懸命修正しようとしてもまったく直らない
だんだんフォームまで壊れていく


パートナーを何度もシャッフルして練習は続く
どの相手からも遠慮のない叱咤が繰り返された



  こんなにも不自由するなんてな。。。



集中力が切れてついに立ち尽くしてしまった


限れらた時間で規律正しく動き、
無駄なくメニューを消化する合同練習


「邪魔だよ! やらないのならこっから出なさい!!」


そう、インストラクターから促されてしまった



時分自身に唖然としながらも一礼して稽古を中座

着替えて荷物をまとめてジムを後にした




ずっと昔から思ってたことがあった



俺が何かを頑張ろうとすると、
必ずそれを妨げる障害が起こる



人には越えられない困難は来ない、というけれど。。。





こうやって何もかも俺から取り上げるんなら、
もう全部もっていきやがれ!




と、さすがにこの時は自暴自棄になってしまった





トレーニングもすっかりやめて、おとなしく目の治療を受ける
そんな日々を消化する毎日





しばらくして一本の電話が入った




「もしもし。。。回復は順調ですか、純さん?」
「。。あ。。ワダさん。。」


ひさしぶりに聞いた、
柔らか味のある落ち着いた声だった