「いいかげんにしろ………
冗談じゃない。
しるか!!
勝手にしろ!!」
俺の心の中は怒りで満ちていた。
新年そうそう気分が悪い。
「勝手にしろ。」
なんて言ったら
本当に勝手にされるだろうなあ………。
あー……………参った。
次から次に色々なことが起きる。
『はあ~…………』
ロビーに着く頃にはくたびれて
ソファーに座り込んでしまった。
どうやって帰るかも分からず
どうしたらいいかも思い付かない。
途方に暮れる俺。
『……ぼっちゃん。………
…………智さん。』
と言う声に気づき振り返ると
阿部が立っていた。
『何かあっては困りますので
お送りして来いとの命令です。』
と、阿部の言葉に
なんだか笑えた。
俺が何も出来ないことを
父さんは知ってたんだ。
路頭に迷うってことも知ってたんだ。
車窓から見える景色は
新年を祝う人たち。
二年詣りに行く和服姿の人たち。
賑やかに騒ぎまくる若者。
そんな人で溢れてた。
俺は横目に見ながら
阿部が運転する車で家へと向かう。
『………みんな………楽しそうだな………』
と、ポツリと呟いた俺。
『智さんは、楽しくないんですか?』
阿部が低い声で尋ねてきた。
『楽しい?
楽しかった事なんて…………
今までの人生に一度もないよ。』
振り返ると
家族で楽しい思い出なんてひとつもない。
思い出すのは
父さんに無理矢理ピアノの前に座らされて
俺も母も泣いている場面。
いつもいつも………………
『……………でも、
楽しそうでしたよ。』
と、阿部がバックミラー越しに俺を見る。
『彼らと音楽やっていた智さんは、
楽しそうに笑ってましたよ。
長い間、智さんを見てますが
あんなに楽しそうにキーボード叩いてる姿は見たことありませんでした。
智さんも、心から笑えるんだって
ちょっと安心したんですよ。』
『………………でも、
それももう終わりだよ。
俺は、1年後には………
父さんの決めた相手と結婚させられるんだ。』
『………………相手をご存知なんですか?』
『知らないよ。
名前も聞かなかった。』
『そうですか。
相手のお嬢さん。
智さんも17歳の時に頂いた賞を
取ったことのある方です。
智さんの後輩ですよ。』
と、阿部が教えてくれたが
そんなの俺にとってはどうでもいい話だ。
どんな相手だとしても
父さんが勝手に決めたことに従うつもりはない。
『俺は………………
こんなバカな話に付き合ってられない。』
と、だけ口にすると
その後、話すことなく黙っていた。
そして、車は母の待つ自宅についた。