大野が奏でるピアノが店内に色を添える。
その中で俺は、ギャルソンとして働いている。
俺がピアノの脇を通ると、大野が俺を見て
ニコって笑うのが堪らなく優越感。
何人かのお客様が
「あのピアニストいいね。」と、
話してるのが聞こえてきて
そのたびに俺は、嬉しくなる。
確かに…………
優雅で、美しい………横顔………
目の部分を覆う仮面を着けていても
美しさはわかる。
『こりゃ、人気が出るな。』
と、先輩が俺の隣で呟いた。
『はあ~………疲れた。』
マンションに帰ってきたのは
日付が変わる寸前。
家につくなりソファーに倒れこんだ大野。
『だろ。
働くって大変なんだぞ。』
と、言いながら
お風呂の用意をしたり
食事の用意をしたりと俺は忙しい。
なにせ、出ていく前に刻むだけ刻んだ材料がそのままだ。
ミネストローネを作るんだった。
料理長に一応聞いてきた手はずで
俺は、作り始める。
『鍋なんて使ったことないけど
これでいっか。』
と、材料が入りそうな鍋を取り出して
「温めて
油を入れてニンニクを入れる。」
すると、凄い煙ると音に驚き
『おー………焦げる焦げる………』
と、叫びながら
慌てて他の材料を鍋に放りなげる。
ちょっとかき混ぜたら安定してきて
トマトの缶詰めを入れて水を入れ
コンソメを入れて蓋をした。
その頃になって
『翔くん。なにしてるの?』
と、やってきた大野。
『ほら、お前が食いたいっていったあれ。』
『あっそっか。
ミネストローネ作るんだ。
やったー』
って、大喜び。
お前は子供か。
ほんと手がかかる。
『さっさとお風呂入っておいで
もう、そろそろ鳴るから。』
と、言うと
『はーい。母ちゃん。』
って返すから
『俺は、お前の母ちゃんじゃねえ。』
と、返すと
クスクス笑ってバスルームに消えてった。
大野が笑うと俺は嬉しくなる。
もっともっと笑ってほしいって思ってしまう。
俺は…………
認めたくないけど…………
大野に……心…引かれてるんだと思う。
『………う~ん。
なんだろ…………
なにが足りないのかなあ…………
違うんだよな………
これじゃない………。』
と、首を捻りながら食べてる大野。
『不味いなら食うな。』
俺の作ったミネストローネを
あーじゃない。
こーじゃない。
と、いちゃもんつけながら食べてる大野。
俺が初めて、
人のために作ったミネストローネに
文句を言うこいつ。
『不味いならいいんだけど
微妙なんだよね。
なんだろ………
母さんの味じゃない。』
『当たり前だ。
俺は、お前の母ちゃんじゃねえ。』
ほんとに、こんな息子持ったことねーわ。
我が儘で
人を振り回して
勝手で………
何も出来ないくせに文句だけは一人前で
こんな奴に、俺が………
心………引かれるわけがない。
気の迷いだ。
と、大野に背を向けて
俺も自分の作ったミネストローネを食べた。
「う~ん。
確かに…………何かが足りない…………
なんだろう……………」
塩コショウが足りないんですよ。
あと、もう少し煮込んでね。
by母さん