「あー………
神様お願いです。
どうか私に平穏を下さい。
私に日常を返してください。
そして、柔らかい布団を…………」
なんでそうなるんだよ…………。
夕方、マネージャーからの連絡で
奴を一人残して家を出た。
何も出来ないあいつを残して家を出るのに
不安はあったが連れて来るわけにもいかない。
「兎に角、なにもするな。
なにも触れるな。
いいな。」
と、言い聞かせて家を出た。
あいつはどうも
"するな"と言うとするタイプ。
だと、思う。
あわよくば、俺が帰る頃には
居なくなってないかな……
…謝礼を置いて………
事務所に着くと
マネージャーから仕事の話を聞いた。
1泊2日の地方ロケ。
行く予定の芸人が体調を壊しての
急なピンチヒッター。
『で、明日なんだけど大丈夫?』
『はい。もちろん大丈夫です。
なんでもします。
やらせてください。
よろしくお願いします。』
と、頭を下げる。
久しぶりのTVのお仕事
少しでも名前を売るチャンスだ。
どんな内容で、何をするのか
土地柄、取材する人の情報を預かって
一晩かけて読み込んで
明日に備えよう。
と、家に帰ってくるまではよかったんだ。
そこまではね。
鼻唄なんて歌いながら帰ってきたぐらいだからさ。
明日は早いから早く寝よう。
今日は、あいつに寝袋で寝てもらわなきゃ。
昨日俺だったんだから
こうなったら「交代でベットを使おう。」
って、ちゃんと言わないとな。
ドアを開けると小さい玄関に
また見たこともないデカイ靴が増えていた。
それも、俺の靴を踏み台にして……置いてある。
そして、俺の足の踏み場がない。
『なんだよ。
このでかい靴は
誰だよ。』
と、目を上げると
そこにはもう一人見知らぬ男が立っていた。
『あっ。
翔くんおかえりなさい。』
と、大野が男の後ろから顔を出した。
『はっ?
こいつ誰。』
と、身長が2mあるんじゃないかってぐらいの大男が俺を見た。
「で、デカイ………」
デカイ上に強面にサングラス。
夜なのにサングラス………って………
やっちゃんですか?
やっぱり……………やっちゃんですよね。
俺はビビって声もでなかった。
『こら。
その言い方やめろよ。
俺を拾ってくれた人なんだから………』
と、大野が大男をたしなめた。
『翔くん。ごめんね。
こいつすぐ帰すから………
ほら。
もう帰れよ。
俺がどこにいるかわかっただろ。』
と、大野が言う。
「どこにいるかバレたのなら
お願いですから
あなたも一緒に出て行ってください。」
と、心の中で呟く。
『でも…………
こんな狭いところじゃ………』
「狭いだとー。
お前がでかすぎるんじゃーぼけ。」
と、小さい声で呟いた。
すると、
『狭かねーよ。
コンパクトで機能性も高くて
俺、気に入ったんだから
それに、
狭いのは、お前がでかすぎるからだろ。』
と、奴が言う。
「そうだそうだ。
規格外のデカさだからだ。」
と、俺も心の中で同調する。
会話を聞いていて
どう見てもデカイ方が年上だと思うのに
主従関係でいくと、どうも大野の方が上みたいだ。
なんだ?
なんなんだ?
大野って言う、こいつは
本当に何者なんだ?
やっぱり……
やくざの………情婦?
もう、これ以上俺を巻き込むな………
巻き込まないでくれ。
「お前も一緒に帰ってくれ。」
と、願うのにそれも叶わず。
デカいサングラス男が
『じゃあ帰るけど。
また来るから。
それまで事を起こすなよ。』
と言って
デカ男は、俺の脇を狭そうに体を捩って出ていった。
『…………なあ…………あいつ………
何者なの?』
大男が帰ったのを見て
あいつに近づいて聞いてみた。
一瞬、俺をちらって見たかと思うと
『おれ………
疲れたから寝るわ。』
と言ってベットに潜り込んだ。
「う、うそ…………
今日はお前が寝袋の番だろ。」
『おい。』
『あっ…………
翔くん。
キッチンにお寿司あるから………
じゃあ……おやすみ。』
「え?
お寿司!!」
結局、俺はまた堅い床の上で
寝袋にくるまって眠る。
お寿司は美味しかったけど…………
なんか違う。
神様…………
お願いです…………
俺に柔らかい布団を………………