普段ほとんどの電話に私が出ているのに
たまたまその電話は違う人がでた。
「息子さんからよ」
一瞬理解できなかった。
だって朝は出勤していたのに…
前の席の子があわてて教えてくれた。
「お昼に具合悪くて帰ったんですよ」
一緒の職場なのに知らなかった。
今診察に来ている病院にすぐ来て欲しい
そういう内容だった。
病院に着くと息子はすこしつらそうで
私は先生から説明を受け
資料と紹介状を準備してもらい
数回手術してもらった大学病院へと
急いで車を走らせた。
車椅子に乗せられて処置室へと運ばれ
どれぐらい待っただろう…
名前を呼ばれて部屋に入ったら
息子の荷物がビニール袋に詰められていた。
それを見て…
亡くなった主人の洋服やカバンが
透明のビニール袋に無造作に詰められ
葬儀社の方が病院から預かってきて
届けてくれたことをぼんやり思い出した。
あの時、その袋にワンズが群がり
クンクンして悲しげに泣いたんだとか
少し消毒液の匂いがしたとか…
本当にぼんやり思っただけなのに
自分の意思とは無関係に
涙がポロポロ溢れてきて…
看護師さんがあわてて
「お母さん、大丈夫ですよ
息子さんはあちらにいますから!」
忘れてしまってはいないけれど
年月とともに薄れてきていた感情。
なんとも言えない悲しみや孤独。
それらが鮮明に思い出されてきて
一人帰った家の中で…
震えるほど苦しかった。辛かった。
たった一枚のビニール袋。
なんでもないような袋。
だけど、今。
またあの苦しかった思いの中に逆戻り。