少女「じぇねこ」は困惑していた。
動体視力はそんなによくないと自覚している上、そんなに興味のないやつの名前なんていちいち覚えていられない。
ぞうきんみたいな臭いがするらしいマリルを連れたヒビキだけは、やたら出てくるので辛うじて覚えたが、マダツボミの擬人化みたいな地元の若い博士の研究所からチコリータを盗んだという赤毛の少年については、バトルをして、そのあとトレーナーカードを拾って渡したという記憶しかなかった。
なので、警察に聞かれたとき、「じぇねこ」は冷や汗をかいた。そして、ほぼとっさに、返事をした。
「しょげた」……。
たぶん、そんな名前じゃなかったんじゃないかなって思う。けれど、「じぇねこ」の力ではもうどうしようもなかった。
こうして、赤毛の少年の名前は「しょげた」になったのだった。
ちなみに、「じぇねこ」はなぜか、雌のワニノコの「しくじった」をくれたマダツボミみたいな博士の思いつきだけで、ワカバタウンを追い出されることになった。
なぜかおかあさんまでノリノリであることに細やかな絶望を感じながら、「じぇねこ」はワカバタウンを去ったのだった。
ついでに、町のすぐ近くでヒビキが先輩面でポケモンの捕まえ方を見せつけ、モンスターボールをくれたことに軽く苛立った「じぇねこ」は、今後一切ポケモンをゲットしないことにしたのだった。