一行はミリーのペーサーをコンテナに積み込み、教会へ向かった。
教会に着くと、ロナンが待ちわびていたかのように目をきらきらさせていた。
二十メートルはあろう巨大なトレーラーも、田舎の少年には刺激的なようだった。
アランがまず車を降り、ミリー、クマロと続いた。
子供たちはクマロの大きな姿に、はじめはまるで怪獣でも見たかのような驚きの表情を浮かべていたが、やがてクマロの見た目とは違って、優しい表情にきづいたのか、おそるおそる近寄って行く。
アランがロナンに向かって言った。
「ロナン、さっそくだがおまえさん、俺らと一緒にこないか? 表向きは運送屋だが、実を言うとルナ鉱石を集めてる、お宝ハンターが本業さ。世間じゃメタルディガーなんて呼んでるけどな。」
ロナンはあまりに唐突な申し出に驚いて言葉がでなかった。
たしかによそ者のアランに興味は持っていたが、いきなりの一方的な言葉に当惑した。
アランが続ける。
「お前さん、いつまでもここにいるわけにも行かないだろう。どうだ? 深く考えずに、まずは見習いって形で。俺らについてくりゃ、ジルドにだって行けるし、ユーラとかいう兄貴にも会いにいけるぞ。武術に興味があるのなら(親指でミリーを指し)ここにいるミリーに習えばいい、勉強がしたけりゃ地元に超がつくほどの天才がいるんだ。そいつに教わればいい。なあに、全国を飛び回ってんだ。ここにゃいつでも帰ってこれるさ」
ロナンの心は幾分揺れ動いたが、やはりあまりにも急な事なので、返答に困っていた。
ロナンがシスターを見ると、あなたの好きになさい、という顔で優しく微笑んでいる。
子供たちを見ると、何人かがクマロの腕にぶらさがりながら、無邪気に遊んでいた。
高齢なシスターだけで子供たちを守れるだろうか?肉や魚の調達は誰が?野犬が襲ってきたら……
そう考えたら、好奇心がすっかり消え去り、不安ばかりが頭をよぎる。
その姿を察して、ジレット爺さんが言った。
「子供たちのことなら心配いらんよ。わしもちょこちょこ様子を見に来るし……」
『子供たち』という言葉にアランがはっとした。
「そうそう、大事に事を忘れてたわ。たぶん俺の勘が正しければ……」
そういうとクマロの元へ行き、耳元でなにやら、ごにょごにょ言っている。
クマロはうなづくと、子供たちを丁寧に降ろして、コンテナからつるはしを持ってきた。
「ちょっとみんな来てくれ」
アランはそう言い残すと、クマロと共に教会の中へ入っていった。
みんなその後を着いて行く。
二人が女神像の前に立つと、なにがはじまるんだろうかと思う間もなく、クマロが女神像に向かってつるはしを思いっきり振り下ろした。
砕ける女神像。驚く一同。シスターはわなわなと震えている。
「な、なにするんですか!?」とロナンが声を張り上げるのと同時に、クマロが今度は残された台座に向かって、つるはしを振り下ろす。
すると砕けた台座の隙間から、溢れんばかりの金貨がこぼれ落ちた。
「こ、これは!?」
「なあに、シスターから前の神父が亡くなる寸前に『めがみ』と言っていたってのを聞いてな。少し気になっていたんだ。おおかた、いざというときのために貯めていたんだろう。たぶん、亡くなる前にこの事を伝えたかったんじゃないかな」
「神父様!」と、シスターが感慨深げに涙を浮かべる。
ミリーがまたアランを睨みつけた。
「何も出てこなかったら、どうしたつもりだ?」
「6割がたは自信あったさ。まあ残りの4割だったら……」アランは少し冷や汗がでた。
ロナンを見ると、表情に明るさが戻っている。
「これでおまえさんの心配の種も解消したろう? これだけありゃ教会の修繕だって、獣から守る柵だって作れるぞ。なんならいっそ、衛星テレビや通信器も揃えりゃいいさ。そうすりゃいつだってここの様子がわかるぞ」
こうして[ハイエナ・トランスポート]にロナンが加わる事になった。
急な旅立ちに子供たちは悲しげな表情を浮かべていたが、ロナンがいつでも会いにこれることを告げると、少し安心したようだった。
「じゃあ、そろそろ出発しよう。ロナン、持って行くものはあるか?」
ロナンは家屋から何枚かの下着類が入った風呂敷と、右手に例の八角棒を携えてきた。
「やっぱりそれ持って行くのか。どれ、その長さじゃキャビンには入りきらねぇ。コンテナに積むんでよこしな」
アランがロナンか八角棒を受け取る。想像してた以上の重さに前につんのめりそうになる。
(なんだこの重さは。鉄でも詰めてんのか、こりゃ。こんな重いのを振り回してたのか)
一瞬驚きつつも、こいつならありるな、と少し納得した。
クマロとミリーがキャビンに乗り込む。続いてアランが運転席へ。
ロナンは生まれて初めて乗る巨大なトレーラーに胸が躍った。
子供たちは名残惜しそうにロナンを見ている。
「ヒゲのおっさん、ロナンを頼むぞ!」
「今度はいつ来る?」
「おみやげ忘れないでね」
ロナンが手を振って答える。
「じゃあ爺さん、世話になったな。シスター、近くに来たらまたよらせいてもらうぜ」
アランはシスターとジレットじいさんに最後の挨拶をすませ、トレーラーをハンドルを右に切り、ルート56の本線へと向かった。。
またもやその一部始終を教会の裏山から遠目で眺めるインチキン、出っ歯、赤鼻の三人組。
「おかしら、なんだかあの生意気なくそがき、拉致られちまったみたいですぜ」
「おうよ、おそろく一番労働力になりそうなのを選んだんだろうよ……気の毒にな」
「でもおかしら、拉致られたのがあの生意気なくそがきってのは、少しいい気味ですね」
「まあな、大人にたてつくとどうなるか、一度怖い目に見りゃいいんだ」
インチキンはおでこの古傷をかきながら、そう言った。
トレーラーの助手席でロナンは落ち着かない様子で目をきょろきょろさせている。
「どうだ? はじめて乗った感想は」
「すごいです! 乗り物といえば牛馬かジレット爺さんのスクーターしか乗った記憶がないので」
ロナンの鼓動が自分にも伝わるようで、アランは少し満足げになった。
「しっかし、見事に誰も通らなかったな」
「ああ、奴ら以外はな」奥からミリーが顔を出す。
「やつら? そうだ! なあロナン、きこりのインチキ……とか言うやつのこと知ってるか?」
「木こり? インチキ?……」ロナンが下を向いて考え込む。
「なんだ、知らんのか。この道で会った三人組なんだがな。そいつらに教会の場所をおしえてもらったんだ」
(三人組?もしかしたら……)
「そういえば、一年ぐらい前に裏山で、僕が落とした獲物を横取りしようとしてた三人組がいたんで、こらしてめてやったんです」
と、ロナンは左で石を投げるポーズを取りながら、無邪気に笑って見せた。
「それからは僕の顔を見たら逃げてしまうんで話したことはないです。ちゃんと話してくれたら鳥ぐらいいつでも譲ったのに……」
あいつら食うにも困ってるのか、とアランには貧しそうな三人組が、少し気の毒に思えてきた。
そしてラジオのスイッチをONにする。
ラジオからはまた雑音交じりのニュースが聞こえてくる。
『……スポンサー問題に揺れる【セノイア・サーモンズ】ですが、【オム・ネ・ポロリン社】の最高責任者ニップリー・ポロリン氏は、改めて明日の正午過ぎに選手会、サポーターズクラブと説明会合を開く事で合意し、一部移籍をほのめかしている選手……ザー…』