目が覚めたとき、アタシは現状を理解できなかった。

いったいどこにいるのか。

なぜ寝ているのか。

確かアルバイトをしていたはず…。

終わったら家でケーキを食べようと思っていたはず…。


目を開けたとき、お母さんがそばに居た。

「あぁ、良かった。目が覚めたね。」

なんのこと?

「誰にやられたん?」

「おぉ、目、覚めたんか!」

お父さん。

「訴えにゃーいけんのぉ!」

訴える?誰を?

「そのためにも誰にやられたんか、言うて?」

「店長さんの話じゃー、がっちりした男じゃったゆうとったけど」

がっちりした男・・・?


あ!!!!!!


そうだった。

アタシ、殴られた。

蹴られた。


元彼に…。


「分かったんか?」


おそらくは半泣きで心配してくれたいたお母さん。

怒りを隠せないお父さん。


本当にありがとう。


でも、

「分かった。でも、訴えるとか、したくない。」

「なんでや!?」

「こんな目に合わされて…誰がやったんね!?」

「…元彼のT・・・。」

「あいつか!!!!」

「でも、ええんよ。アタシにも悪いとこはあったんじゃし…。これでもう二度と会うこともないじゃろうし・・・。」

「アンタ・・・。」

「心配かけてごめんね。」


と言うことで、結局警察に届けたりはしなかった。

今でもあの判断が良かったのかどうか、わからない。

だって、その後もしかしたら他の女の子を殴ったり、蹴ったり、してるかもしれないし・・・。


実際、これで縁が切れる、と思ったアタシの考えは甘かったみたいで。

その後、アタシは家に帰れなくなった。

毎日アルバイトが終わると、家の前で待ってるのだ。

アルバイト先では、店長をはじめ仲間がみんなで彼を追い払ってくれたので、彼はアタシに近づくことができなかった。

だから、家の前で待ってた。

そのため、アルバイトの帰りは必ず誰かに送ってもらうようになった。


しばらくして母がもう一度言った。


「警察に届けたほうがいいんじゃない?」


でも、アタシはその頃から警察不信だったし、面倒は避けたかった。

それに、2年ちょっと付き合った彼と、これ以上ギクシャクしたくなかった。


けれど、その後さらにエスカレートする。

PHSが何度も鳴る。

出ても何を話すわけでなく。

いわゆる無言電話だ。


それを無視し始めると、今度は家の電話が鳴った。

家の電話は留守番電話になっているのが常になったが、いつでも無言電話でいっぱいになっていた。

だから、PHSを持ち直した。


しばらくは家の電話しか鳴らなくなったが、どこで調べたのか、ある日、新しいPHSにかかってきた。

出ると

「なんで黙ってかえたんや!!!」

と怒鳴り声が聞こえた。


それから手紙が送りつけられるようになった。

意味不明な言葉が羅列されたものだった。


全部燃やした。

本当はストーカー被害で訴えるなら、証拠としてとっておかなければいけないものだ。

しかし、家の中にそれがあることが嫌で嫌でしょうがなかった。


こんな日々がいつまで続くのか、と思っていた。

本当に警察に行かなければいけないのか・・・と思い始めた頃、事態は急変した。