彼と別れて1週間。

最初は頻繁になった電話もなくなり、アタシはバイトと遊びに夢中になっていた。

毎日のようにアルバイトしてたからお金はあった。

遊びに行ってもだいたいは別の誰かがお金は出してくれたし。

彼とだと考えられないことだった。

いつもアタシが払ってたから。

往復の新幹線、ホテル、食事・・・果ては彼の服まで。

まあ、服に関しては、彼がいらない、って言ってるのに、無理やり買ってたので、一概に払ってあげてた、とは言えないかもしれない。

でも、あんなぼろぼろの服で一緒に歩きたくなかった。

そして誕生日がきた。

我が家ではお祝い事は自宅で家族揃って、というのが当時主流で、その日も一度帰って、自宅で祝ってもらってから、再び外へと出かける予定になっていた。

アルバイトを終えて、帰宅したアタシに母は言った。

「荷物が届いてたよ。」

ダレからだろう?と思い、小包を見てみると、そこにはまぎれもない元彼の名が。

・・・。

少しブルーになりながらも封を開けると、中にはカセットテープと、汚い字で書かれた手紙が入っていた。

「誕生日おめでとう。愛をこめて。」

・・・。

もしもこれがラブラブな二人だったなら、嬉しかったのかもしれない。

でも、アタシはもう彼に気持ちはなかった。

だから、なんだか嫌悪感を覚えた。

けれど、別れを切り出したのはアタシのほうだし、付き合っていた頃の彼への同情心もあって、とりあえずテープは聞いてみることにした。

時代はMDなのにカセットって…。

と思いつつも再生ボタンを押す。

!!!!!!!!

あまりのことに言葉も出ない。

流れてきたのは野太く暗い男の人の声。

その声がどうやらハッピーバースディを歌っているようだった。

歌が終わると、彼が何かを喋り出した。

「潤子、おれは今でもお前のことが好きなんだ。好きなんだ。」

「何でいきなり別れるなんていうんだ。本当はまだ好きなんだろ?そうだろ?」

・・・。

繰り返される言葉。

なんだか怖くなってテープを止めた。

背筋が寒くなるのを感じる。

笑える感じの寒さではなく、紛れもない悪寒。

アタシはすぐにカセットテープを取り出し、箱の中に戻して、ゴミ箱に捨てた。

でも耳の奥でまだ彼の声が響く。

別れを切り出したのはアタシだし、向こうが怒ったのはしょうがないことだと思う。

でも、電話でたくさん話して、納得してくれたと思ったし、それ以上に、気持ちがなくなったのに付き合っていく理由が見当たらない。

何もかもなかったことにして、遊びに出ることにした。

アルバイト先の男友達が迎えに来てくれて、先輩たちとカラオケに行った。

歌ってる途中、彼から電話があった。

一応お礼も言わなきゃな、と思って出ることにした。

なんだか怖かったけど。

すると電話の向こうで、彼は言った。

「俺の愛、届いた?」

…。

なんだろう、寒い。

どう返答していいのか分からない。

「う・・・うん・・・。」

「俺の気持ち、分かってくれた?」

「・・・。」

「お前も本当はまだオレのこと、好きだろ?」

「・・・。」

「なんでずっとだまっとんや!!!

彼は怒り出してしまった。

「ごめん…本当に、もう、好きじゃない。」

「はあ?」

「だから、付き合う気もないし、もう電話もしないでほしい。」

「ふざけんなや!!」

と、それ以降、怒鳴られ続けた。

いつまでも戻らないアタシを心配して女の先輩が出てきた。

すると、別の男の先輩を呼び出し、電話に出た。

「お前、もう電話してくんな!」

と言って、先輩は電話を切った。

アタシはどうしていいのかわからず、呆然としていた。

「ああいうやつは、弱気に出ると調子に乗るけー、強く出たほうがええよ。」

女の先輩にそう言われ、力なくうなずく。

「まあ、ワシが言うといちゃったけー、しばらく大丈夫じゃろ。」

男の先輩の言葉に、なんだかほっとしたのか、涙が出た。

その言葉通り、それ以降電話は鳴らなくなった。

そうしてほっとして1ヶ月。

アタシは彼の存在を忘れかけていた。

いや、忘れようとしていた。

初めての別れがこんなにも嫌な思い出になるとは思いもしなかった。

もちろん、心変わりをしたのはアタシの方だ。

でも、何度も言うようだけど、そんなのどうしようもないことじゃないか。

もっと言えば、アタシの気持ちを引き止められなかった彼にだって、責任はあると思う。

それは世の中のどんなカップルも夫婦も同じだろう。

そしてクリスマスがやってきた。

イブはたくさんの人に誘ってもらった。

もちろん、友達として遊ぼう、という人もいれば、男女の関係になりたくて誘ってくる人もいた。

でも、全部断った。


その日はアルバイトが終わったら、家に帰って、自宅でさっさと寝るつもりだった。

明日がクリスマスだから、明日に備えたかったのだ。


けれど、そんなささやかなアタシの希望は、あっという間にぶち壊されてしまうのだった。


明日に続く。