昨日緊急事態宣言が発令され、不安な気持ちで過ごされている方も多いかと思います。

 

飲食店では除菌や換気を徹底して営業するのか、

営業を自粛するのかで大きく判断が割れるところでもあると思います。

 

そんな中、テイクアウトや配達などでお料理を提供するお店も多くなってきました。

 

もちろん、衛生面には十分に配慮して調理・提供されていると思います。

食品衛生管理者の講習でも衛生法規から公衆衛生学、食品衛生学とみっちり

お勉強があるので(寝ていた人はこの機会にやり直してください 笑)

 

加熱は中心温度が75℃で1分以上加熱だとか(この温度の理由、学生のテストには必ず出します。ノロウイルス対策の場合は85℃以上1分以上です。)、

作って2時間以内喫食が基本だとか、

その他手指の消毒の方法や食品の取り扱いなどについては

もちろん徹底していらっしゃるのを前提でお話しします。

 

私は東京YMCA国際ホテル専門学校というところで

食品衛生の講師をして今年で8年目になります。

 

大学院を卒業してから、管理栄養士として

病院での給食管理、大量調理の経験、

また保健所での病院や事業所への立ち入り検査の経験もあり、

双方の観点から衛生管理の大切さを常日頃感じています。

さらには飲食店で働いた経験もあり、

厨房の衛生管理がいかに難しいかも知っています。

 

そんな食品衛生を教える管理栄養士の目線で、

昨今のテイクアウトについて、食中毒を起こさないために、

どんなお店でも今日からできる衛生対策をふたつ提案させていただきたいと思います。

それは

①検食

②保存食

のふたつです。

 

でも、実はこのふたつ、業界によって混同されています。

 

(1)まずは「検食」について

 

お弁当や仕出し屋さん、ホテルの宴会やパーティ料理などで、

指針とされるのが「大量調理施設衛生管理マニュアル」です。

 

このマニュアルは、

集団給食施設等における食中毒を予防するために、HACCPの概念 に基づき、

同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する調理施設に適用されています。

 

ここでの「検食」は、

「原材料(購入した状態のもの)及び調理済み食品を食品ごとに 50g程度ずつ清潔な容器に密封して入れ、マイナス20°C以下で2週間以上保存」

というものです。

 

すなわち、安全な材料を使って、健全に調理をして提供したのか、

という証になります。

また、もしも提供した食事を食べて食中毒が発生した場合、

どこに原因があるのかの早期発見につながります。

 

「大量調理施設衛生管理マニュアル」

でいうこの「検食」について、

食材を調理して多くの方々の提供するという意味では大量調理施設と同じですが、

対象者が限られている学校給食と病院食では違うものとして記載されています。

 

学校給食での指針となる「学校給食衛生管理の基準」と、

病院食での指針となる「入院時食事療養における基準」では、

同じ意味でも言葉が「保存食」となります。

 

では「検食」とはなんなのか?

ということで表にまとめてみました。

 

 

ということです。

 

では「学校給食衛生管理の基準」と「入院時食事療養における基準」における「検食」は何かというと、提供する前に試食をするということです。

これにはいくつか理由があるのですが、

大きな理由のひとつに「食中毒発生の予防」があります。

 

私が勤務していた病院では、食事時間が12:00からに設定されていました。

料理の盛り込みが11:30ぐらいにスタートするとすると、

その直後に医師2名と管理栄養士1名が検食をして異常がないかを確かめます。

異常がない場合提供となります。

 

また、提供するものと同じ食事をすることによって、

その後食中毒など何か事件が起こった時に、

それが食事に起因するものなのかをいち早く知ることができます。

 

いわゆる「御毒見」です。

 

なんだかお殿様に出す料理を食べる人みたいなー、

と大袈裟に聞こえるかもしれませんが、

とても大切な役割を果たします。

通常何も起こらないことが多いので、

検食は味の変化をみたり、美味しく出来上がっているのか確認したり、

とといった意味合いの方が強いものです。

(残食量と照らし合わせて、料理の味付けが良くなかったのかな、とか硬すぎたのかな、とか理由を知るのにも使います)

 

この「検食」をぜひ実行して頂きたいのです。

それには今回の場合、ふたつ大きな理由があります。

 

ひとつめはもちろん何か異常がないかを確かめるためです。

食中毒は細菌やウイルスはよく知られていますが、

他にも薬品や洗剤など化学物質に起因する「化学性食中毒」、

野生のきのこやフグ、貝類などに起因する「自然毒食中毒」

など多くの原因があります。

まさかそんなこと、と思いがちですが、

こうした食中毒は無くならないのが事実です。

化学性、自然毒の食中毒の場合、症状が出るのが比較的早いですので、

それだけでもひとつリスク回避ができます。

 

味見は毎日してますよ、というものではなく、

そのお料理を作っていない方が、

きちんと一食分召し上がってください。

 

ふたつめの理由は、

お店で提供する場合、2時間以内の喫食はあまり問題になりませんが、

テイクアウトとなると、

購入した人がいつそれを口にするかまでは追えないのが事実です。

もし何か起こった場合、購入して頂いたお料理に問題があるのかどうか、

同じ食事をしていれば、明らかになりやすい、ということです。

これはお店を守ることにもつながります。

 

そして検食の時間と味や香りに何か変わったところはないか、

健全であるか、等、何かノートでも良いので、

検食簿を作って記入してください。

 

もうひとつ欲を言うのでしたら、

購入した人と購入品、購入時間をこちらもノートで良いので、

記入しておくと安心です。

 

そして本当に食事に問題があったのか、

その場合はいつの食事でどの料理で何が原因物質なのか、

感染源を特定するために「保存食」が役に立ちます。

 

(2)保存食の必要性

 

保存食は購入した状態の原材料と、

調理して提供する状態になったものをそれぞれ50g程度冷凍保存するものです。

 

病院や学校給食施設では、

中が分割されているお弁当箱みたいなものに入れていきますが、

そんなものは必要ありません。

清潔なビニール袋に入れて、口をしっかりと閉め、

日時別にバットなどにまとめて、

マイナス20℃以下の冷凍庫で2週間以上保存すればOKです。

 

50gというのは検査できる最低量で決まっていますが、

例えば乾物なんて50g入れてしまったら大変な量になってしまいます。

あくまで50gは目安ということです。

 

こちらは原因物質の早期特定につながります。

細菌によっては潜伏期間が一週間と長いものもあります。

そうすると何が原因なのか、わからないうちに感染を広げてしまう可能性があります。

 

また、新型コロナで保健所が大変な状況にある中、

食中毒の原因物質の特定に時間を割くのが困難かと思われます。

原因と思われる食材が保管されているというだけで、

他への感染拡大予防と早期解決につながります。

 

(3)まとめ

 

飲食店の方に、食中毒を予防するために行っていただきたいのは、

①検食を行い、検食簿をつける

②保存食として検体を冷凍保管する

そしてもうひとつ踏み込めるなら、

③購入した人と購入品、購入時間を記入し保管する

(あ、三つになっちゃった)

 

以上です。

これらはもちろん大切なお客さまを守るためが第一ですが、

お店とご自身、スタッフを守ることにつながります。

 

お金をかけて準備するものは何もありません。

そして全て今日から出来ることです。

頑張っていらっしゃる飲食店の方々に何かお役に立てるのでしたら幸いです。

 

余談になりますが、

「大量調理施設衛生管理マニュアル」でなぜ学校給食や病院食でいう「検食」

が設定されていないのかというと、

こちらはまた別の考え方で、

そこで作成されたお料理を調理した人が食べてしまうと、

食中毒が発生した時に、感染源がどこにあるかわからなくなってしまうからということです。

すなわち、調理した人がすでに細菌やウイルスに汚染されていた場合も考慮してあります。

 

学校給食施設でも、病院でも、

調理をする人は調理師さんで、

検食する人は調理をしていない人が実施する場合が多いのですが、

こちらは調理した人以外とは明記されてはいません。

 

飲食店では料理人が調理して、サービスの方が検食をする、

など設定していただければ良いかと思うのですが、

スタッフにおやすみをお願いしている飲食店さんですと

難しいかもしれませんね。

調理した人以外と定められてはいないので、

お店でやりやすいようにして頂いて良いかと思います。

 

長くなりましたが、私に今出来ることは何かといつも考えています。

 

こんなこと必要ないよ、という方もいらっしゃるかもしれませんが、

食中毒を抑える方法も、多くの方が知恵を出し合って、

現状に即したものが、正しく広まってくれると良いと思っています。

 

もうすでに初めていらっしゃる飲食店さんも多いとは思いますが、

何かのお役に立てますと幸いです。

 

【参考】

 

「大量調理施設衛生管理マニュアル」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000168026.pdf

 

「学校給食衛生管理の基準」

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/07/08071616/001.htm

 

「入院時食事療養における基準」

https://qmir.files.wordpress.com/2017/02/02nyuuinzisyokuziryouyou.pdf

 

ご意見、ご感想がございましたら、

こちらの公式ホームページからメッセージ頂けますと幸いです。

 

http://www.junko-fujita.com