私が話しかけると

それに応じてか

宙を見ながら意味不明のことを言う母。


でも今日は、

久々に、この言葉を聞き取れました。


「帰らんといかん・・」 (帰らないといけない・・)


・・・・懐かしいような・・

・・・なんだか嬉しい気持ちになりました。



しかし、その言葉は

母を看ていた時分は辛い悲しいものでした。


自分の家にいても、「帰らんといかん・・」と

家の中を歩き回り

そして、玄関だと分かると、

ドアを開け家を出るのです。


右と左の履物が違っていて

可笑しくもあり、悲しくもあり・・

母の手を握って、何度も家に連れて帰りました。


ある日、母の姿がなく

家中捜しましたがいません。

もしかしたら外に出て彷徨い歩いていたら・・・

事故でもあっていたら・・・

そう思うと、生きた心地がしませんでした。


辺りを捜し、近所の人達にも聞いてまわりましたが

母の姿を見た人はいませんでした。


家の中のどこかにいるはず・・・

そう確信して、まずは庭から・・・。


すると、西の小屋の中の奥の方に

じっと立っている母を見つけました。


母は、困ったような顔をしていました。

帰り道が分からなくなっていたのだと思います。


「何してると!」と心配も重なり私は大きな声をあげていました。


気が付くと、母ははだしでした。


母を抱きしめ手を握り家に帰りました。




「帰らんといかん・・」


母との思い出が蘇りました。