ルルは不細工な女だった。
不細工な顔に厚塗り の化粧。
俺に気に入られるために必死に真っ赤な口紅をひいていた。
ある朝ルルは言った。
ふるさとに帰ったら、戻って来ないかも知れないと。
俺は引き止めなかった。
俺は知らなかった。
ルルにはふるさとに置いてきた恋人がいたことを。
ルルをむかえにいったあの日、あいつは男と手をつないでいた。いかにも野暮ったい、畑を耕すために生まれてきたような、愚鈍な男。
俺は思い出した。
出稼ぎにきたルルをひろったこと。
ルルが作ったスープを飲んだこと。
その眼球に舌を這わせる安堵感。
ルルの真っ白な内腿。
ルルは不細工だが大事な女だった。俺が生きていくために必要なパーツだった。
俺はルルが、俺の持つ刃によっていつも、ひどく傷ついていることを知っていた。可哀想なルル。
可哀想な俺。
俺は俺と、共犯だ。
ルルは帰って来ない。
不細工な顔に厚塗り の化粧。
俺に気に入られるために必死に真っ赤な口紅をひいていた。
ある朝ルルは言った。
ふるさとに帰ったら、戻って来ないかも知れないと。
俺は引き止めなかった。
俺は知らなかった。
ルルにはふるさとに置いてきた恋人がいたことを。
ルルをむかえにいったあの日、あいつは男と手をつないでいた。いかにも野暮ったい、畑を耕すために生まれてきたような、愚鈍な男。
俺は思い出した。
出稼ぎにきたルルをひろったこと。
ルルが作ったスープを飲んだこと。
その眼球に舌を這わせる安堵感。
ルルの真っ白な内腿。
ルルは不細工だが大事な女だった。俺が生きていくために必要なパーツだった。
俺はルルが、俺の持つ刃によっていつも、ひどく傷ついていることを知っていた。可哀想なルル。
可哀想な俺。
俺は俺と、共犯だ。
ルルは帰って来ない。
今日は巽と逢う日だ。
毎週金曜日の逢瀬、吉祥寺の「和楽」という旅館で巽を待つ。
「やあ、待ったかい」
「いいえ、少しも」
巽とは、布団で手をつなぐだけのときもあるほど、長い付き合いだ。和楽の風呂のタイルは冷たい。今日は肌を重ねるらしい。
私達は事を終えたあと、布団にくるまって眠った。
ふと先週、巽が奥方とスーパーで買い物をしているところを見かけたのを思い出す。
私はつとその場から離れたのだった。嫉妬も羨望も覚えないかわりに、一抹の寂しさが私のなかを吹きすぎていく。
物心ついた頃から私は孤独を愛した。その内実は、失いたくないから何も手に入れたくない。
私は臆病者だ。
もしも明日、巽が死んだら。
私はどうなるのだろう。私はそれが怖いから、巽の連絡先も家も知らない。巽には公衆電話から私の携帯電話に連絡するように言ってある。
もしも巽から連絡がなくなったときは、巽が私に飽きたとき。
そう思いたいから、互いの肉体しか共有しないと決めたのだ。
年末。
巽から連絡がなくなった。私は独り、リビングの床で眠った。巽は夢に出てこなかった。起きたとき、目が腫れていた。あんなに稀薄な付き合いでも、やはり恋しくなるものだ。私はもう恋はしないとぼんやり思った。
2月。
ベランダに巽が現れるようになった。私はベランダに出なかったが、ガラスごしに巽が私に愛を告白しているのが分かった。
巽は裸だった。左胸の心臓部分に大きな切り傷があった。
私は孤独しかいらない。
孤独しかいらないということは、絶対的な愛が欲しいということだ。
私は家にある薬をすべて飲んだ。
私はやっと夢に出てきた巽と手をつないだ。巽の左胸は綺麗だった。
私達ふたり、天国へは行けないだろう。それならば、どうせなら地獄まで。
毎週金曜日の逢瀬、吉祥寺の「和楽」という旅館で巽を待つ。
「やあ、待ったかい」
「いいえ、少しも」
巽とは、布団で手をつなぐだけのときもあるほど、長い付き合いだ。和楽の風呂のタイルは冷たい。今日は肌を重ねるらしい。
私達は事を終えたあと、布団にくるまって眠った。
ふと先週、巽が奥方とスーパーで買い物をしているところを見かけたのを思い出す。
私はつとその場から離れたのだった。嫉妬も羨望も覚えないかわりに、一抹の寂しさが私のなかを吹きすぎていく。
物心ついた頃から私は孤独を愛した。その内実は、失いたくないから何も手に入れたくない。
私は臆病者だ。
もしも明日、巽が死んだら。
私はどうなるのだろう。私はそれが怖いから、巽の連絡先も家も知らない。巽には公衆電話から私の携帯電話に連絡するように言ってある。
もしも巽から連絡がなくなったときは、巽が私に飽きたとき。
そう思いたいから、互いの肉体しか共有しないと決めたのだ。
年末。
巽から連絡がなくなった。私は独り、リビングの床で眠った。巽は夢に出てこなかった。起きたとき、目が腫れていた。あんなに稀薄な付き合いでも、やはり恋しくなるものだ。私はもう恋はしないとぼんやり思った。
2月。
ベランダに巽が現れるようになった。私はベランダに出なかったが、ガラスごしに巽が私に愛を告白しているのが分かった。
巽は裸だった。左胸の心臓部分に大きな切り傷があった。
私は孤独しかいらない。
孤独しかいらないということは、絶対的な愛が欲しいということだ。
私は家にある薬をすべて飲んだ。
私はやっと夢に出てきた巽と手をつないだ。巽の左胸は綺麗だった。
私達ふたり、天国へは行けないだろう。それならば、どうせなら地獄まで。
