今日、こんな物語を創ってみました🌿
【波にのまれた、小さな波】
むかしむかし、とても大きな海に、
ミナモという小さな波がいました。
ミナモは、お話をつくるのが大好きでした。
風が吹けば、
「風さんは、どこか遠い国から来たのかな」
白い鳥が飛べば、
「あの鳥は、空の向こうへ手紙を届けるのかな」
ミナモがお話をつくると、
いつもの海が、少しだけ広く、きらきらして見えました。
海も、ミナモのお話が大好きでした。
*
ある日、仲よしの波から届くはずの貝殻を、
別の波が運んできました。
「あれ?」
ミナモの胸に、小さな泡がひとつ生まれました。
「どうして、あの子が直接持ってきてくれなかったんだろう」
すると、小さな泡から、
ひとつのお話が生まれました。
「もしかして、ぼくとは、もう遊びたくないのかな」
そのお話は、次のお話を呼びました。
「きっと、ぼくに黙って、みんなで何か決めたんだ」
そして、もうひとつ。
「ほんとうのことを隠しているんだ」
ぽこ。
ぽこぽこ。
ざぶん。
小さな泡だったお話は、
あっという間に大きな波になりました。
「そんなの、ひどい!」
ミナモは荒れました。
ざぶん。ざぶん。
ざざーん。
ほんとうに起きたことは、
貝殻がひとつ、別の波から届いた。
ただ、それだけでした。
けれどそのときのミナモには、
自分がつくったお話が、ほんとうの出来事に見えていました。
*
ミナモが荒れると、海の上には嵐が起きました。
自分で起こした波なのに、
ミナモはその波にのみこまれました。
「わああ。助けて!」
そのとき、ずっとずっと深いところから、
静かな声が聞こえてきました。
「ミナモ。いま、何が起きていますか」
「みんなが、ぼくを仲間はずれにしたの!」
「それは、確かめたことですか」
ミナモは、はっとしました。
深い海の声は、もう一度たずねました。
「ほんとうに起きたことは、なんですか」
ミナモは、荒れる波のあいだから、
たったひとつの貝殻を見つめました。
「貝殻が……別の波から届いた」
「それから?」
「それだけ……」
そう言ったとたん、
ざぶんざぶんと荒れていた波が、少しだけ小さくなりました。
*
ミナモは、仲よしの波に聞きました。
「ねえ。どうして、貝殻を自分で持ってきてくれなかったの?」
仲よしの波は答えました。
「大きな風が来て、そっちへ行けなかったんだ。
だから、近くを通る波にお願いしたの。
ちゃんと届いて、よかった」
「……それだけ?」
「うん。それだけだよ」
ミナモの上で、小さな泡が、ぱちんとはじけました。
それからミナモは笑いました。
「ああ。ぼく、自分でつくった波に、
自分でのまれていたんだ」
*
ミナモは、深い海に言いました。
「でも、お話なんてつくらなければ、
波にのまれることもないのかな」
深い海は、静かに答えました。
「お話をつくることは、悪いことではありませんよ」
その声が海の上まで届くと、
ミナモがつくったお話は、青い鳥になって空へ飛びました。
「お話は、ときには翼になります。
見たことのない景色を見せ、
離れた心と心を、つないでくれます」
青い鳥は、海の上を自由に飛びまわりました。
「けれど、お話であることを忘れて、
ほんとうの出来事だと決めたとき、
その翼は、大きな波になることがあります」
ミナモは、しばらく考えてから聞きました。
「じゃあ、また波にのまれそうになったら、
どうしたらいいの?」
「思い出せばいいのです」
「何を?」
「自分に、こうたずねるのです。
“ほんとうに起きたことは、なんだろう”
“そこに、わたしはどんなお話を足したんだろう”と」
*
海の上では、今日もいろいろな波が生まれています。
うれしい波。
悲しい波。
腹を立てている波。
怖くて震えている波。
けれど、どれほど海の上が荒れていても、
そのずっと深いところには、
何にも揺らされない静かな海があります。
そして、荒れている波も、
静かな深い海も、
ほんとうは同じ水でできています。
ミナモは、波立たなくなったわけではありません。
いまでも、ときどき小さな泡から、
大きなお話をつくります。
そして、ときどき、
自分の波にのまれそうにもなります。
そんなときは、深い海の声を思い出します。
「ほんとうに起きたことは、なんだろう」
すると、お話はふたたび翼になって、
ミナモの上から、空へ飛んでいきます。
ミナモは、その青い鳥を見上げながら、
自分が波であり、
同時に、大きな海でもあることを思い出し安心するのでした。
これは、あなたの物語
ミナモのお話が絵本として、
製本され1冊からお手元に
届くようになりました🥰









