形成外科の診察室に入ると
今日は学生が一人もいない
慣れというものはこわいもので
学生達がいない事がなんとなく寂しい
電子カルテに入力する時
学生達が助け船を出すという場面が多々あったので
学生が一人もいないことにちょっと不安すら感じる
更に看護師もいつもと違う
慣れない外来なのだろうか
右往左往している様子にまた不安がつのる
傷穴の診察をしてもらうために服を脱いで準備をしている間
カーテン越しに医師と話し
傷穴の調子が良いような気がする事を伝えると
ルー医師は機嫌良く
『そうでしょう、そうでしょう』
と嬉しそうに傷穴をみてくれる
『この調子だとあと10日から二週間かな
ここまできたらあとは早いから』
そして、先週採った細胞の培養検査で
菌が居なかった事を告げられる
へ?
とはてなマークの顔でいると
その前に採った細胞の培養検査では
何だか良くない菌があったらしく
前回検査に出すということは聞いていたが
前々回の事は検査に出すことも
悪い結果が出ていた事も
知らなかった
ルー医師はいつものように
慣れた手つきで傷穴を食塩水で洗い
鉗子で傷穴の奥の方をちょいちょいとつまんでガーゼでグリグリしている
いつもと違うのは学生達がいないのと
看護師が違う
医師からのひとつひとつの指示に
ツーカーとはいかない様子がわかる
『メロリン持ってきて』
ここで正義のヒーロー
メロリン登場だ
いつもなら学生か看護師に傷穴に合わせてメロリンを切らすのだが
痺れを切らしたルー医師は
メロリンとハサミを受け取り
それはそれは素早く綺麗にメロリンを切り傷穴にのせた
その後にのせるパッドも慣れない看護師がなかなか見つけ出せずにいる
ルー医師が若干イライラしているのがわかる
『この傷穴、どうなるかと思ったけれど
治って来て良かった~』
と、先生に感謝の言葉を伝えると
なんとなく殺伐としている空気が和んだ
着替え終わって
ルー医師の前の椅子に座ると
目の前にある自分の診察ホルダーの下に違う患者のホルダーも重ねて置いてある
この外来ではいつもこの状態なので
他の患者にホルダーが渡るという間違いがないことが不思議だが
きっとそんな間違いがあったなら
今もこの状態な訳はない
しっかりしている患者ばかりなのだと
ちょっと可笑しくなる
自分のホルダーだけを持ち部屋を出たあと
診察室の中からルー医師のこんな声が聞こえてきた
『あ、これ、忘れてないかな』
いやそれは違う患者さんのですよ······
今日も突っ込みどころ満載の
ルー医師の診察が終わった
形成外科の診察が終わるといつもなぜか楽しい気分になる
前回までは処置に痛みがあったので
楽しい気分もかなりぶっ飛んでいたが
今日は処置時の鋭い痛みはほぼなく
ルー医師の診察を楽しんだ
もしこの医師の講演とかがあったらきっと面白いだろう
市民向けの講演をやってもらえたら嬉しい
『傷口はウエットにね』
と熱く語る事は間違いないだろう
グリグリされた傷穴がやはり痛む
治りかけが肝心だ
安静にしていよう
このままどうか順調に治っていきますように
今日も細胞達にエールをおくろう
正義のヒーロー
シリコン加工がしてあって
傷口をウエットに保ってくれる
メロリンガーゼ