何かを握り締めながら、僕はふと目を覚ました。
時速約300キロで、外の世界が後ろに消え去っていく新幹線の車内。
倒したシートに深く腰掛けながら、
僕はいつの間にか固く閉じられた右拳に目をやった。
ぼんやりとした頭の中が、しだいにくっきりとしていく。
グーパー、グーパー。
隣に座った学生らしき男の子のイヤーホンから、シャカシャカとした軽い機械音がもれ出ていた。
グーパー、グーパー。
車両の先頭にある電光掲示板が、春のセンバツで駒大苫小牧高が優勝したことを告げている。
僕はさっきまで見ていた夢の世界へ戻るように、目を閉じ、意識を集中した。
グー、パー、グー、パー。
頭の中でもやもやとしていたものが、何かの像を形作ろうとしている。
はっきりとした形は分からない。
でも、僕には十分すぎるほど分かっていた。
グー、パー。
それまで見ていた夢のストーリーも思い出せない。
けど、僕はもう、気づいていた。
それが、北山であることに。
グー。
僕は、僕が手にできるはずだった、幸せを握り締めてみる。
パー。
僕はそっと目を開けた。
でも、開けた手のひらには何もない。
グー。パー。
現実の僕は何も握り締めることができなかった。
それでも僕は繰り返す。
グー、パー、グー、パー。
2006年、3月のある日。
僕は故郷の大阪から、東京へ向けて戻ろうとしていた。
その年の1月から転勤で住居を移した大都会へ。
窓の外では、ピンク色に色づいた街が、猛スピードで僕の後ろへ駆け抜けていった。
グー、パー。
僕は、その場から動くことができない。
グー、パー。
僕は、もう1度目閉じ、
まぶたの裏に浮かんでくる北山の笑顔をぼんやりと見つめていた。
(つづく)
2006/11/20