在った
ココに
一人の魂
あの箱からこぼれる明かり
流れる笑い声
逃げようと足を動かした
けれど逃げられない
やはり追ってしまう
見てはいけない
聴いてはいけない
隙間から迫る闇
呑まれ
砕け
散っていく

我が身を犠牲に
守りぬいたものはなんだった
寒さに怯え震わせていた身体はなんだった

待っても置きざりで
ほったらかしにされたのは
なんだった
誰だった

声をあげても
響かない
言葉を吐いても
伝わらない

白い息は空高く昇り
いつか消えてしまった





風を切ろうか
共にきられた身体と

やけに冷えきった世界の中を
放たれた矢の如く進んで行く
貫いて


傷つき弱った心に問おう
同じ「こぐ」ならオールでもいいかい?
一つ戻って誰かに届けてもいいかい?

消えゆく我が身よ
我は旅立つ
空がまた澄み切ったときまで
しばしの別れ



我は独り旅立つ





西の空のお日様は朱く燃え
『また明日』の言葉を残し
眠りについた




段々辺りは暗くなり
段々闇に包まれて
起きたばかりのお月様は
友達である幾千もの星々に
『こんばんは』と声をかければ
友達はまばゆく光りだした




半分光るお月様
半月と呼ばれるお月様
大地を静かに照らしだし
眠った生き物を優しく見守った






すると草の上に座り込み
1人夜空を見上げてた
小さな少年を見つけた







──こんばんは



半月のお月様が声をかけると
少年は少し驚いてから


「こんばんは」


と戸惑いながら言った




──何をしているの?



お月様が尋ねると、少年は



「空を見てるの」


と答えた
少年の短い髪は風に揺れ
大きな瞳は澄んでいた




──お家に帰らなくてもいいの?



お月様は尋ねた



「………帰っても僕1人だから。
 お父さんもお母さんも毎日毎日
 朝早くから夜遅くまで仕事なの」



少年は少しうつむき気味に言った




──そっか。







すると少年はしばらく黙り込み
お月様も黙り込んだ





草が風に揺れる音がする
少年の呼吸が
ゆっくりゆっくり聞こえてくる


お月様はさっきよりも
高いところに昇っていった
星々の光は小さく
弱々しいものだったが
それでも懸命に光り続けた




「あのお星様たちは
 みんなお月様の家族なの?」



少年は星を見上げて聞いた
お月様は少年を見つめ答えた




──家族のような友達かな
  大切な大切な友達だよ



お月様は微笑んだが
少年は笑わず
不思議そうな顔を見せた



「友達なのに家族みたいなの?」



──そうだよ 家族みたいに
  とても大切で温かいんだ



「ふーん」




少年は近くにあった小石を拾うと
座ったまま軽く投げた
小石は空中で弧を描き
地に落ちると少し転がって
そして動きを止めた





「僕には友達なんていないから
 『家族みたいな友達』
 ってなんかよく分かんない」



少年はうつむいた
うつむいたままじっとした


泣いているのか……?
いや、泣いてはいないようだ
涙は出ていない
出てはいないが…………




少年の背中は確かに小さく
それはさらに小さく見え
散りばめられたどの星よりも
弱々しい光を放っており
いつか周りの闇に呑まれ
闇の中へと消えてしまいそうな
そんなちっぽけな姿を見せた


















お月様は思った
なぜ朝と昼と夜があるのか

なぜ太陽と月があるのか

明るく暖かく輝く太陽と
淡く冷々と光る月

真っ赤に燃え上がる太陽と
白々と白銀に染まる月



必要とされるのは太陽ばかり
月はいつも見守るばかり


毎日の変化を楽しめる太陽を
いつでも月は羨ましがっていた

そしていつも独りを感じていた



月は星以外に雲以外に
友達などいない



太陽は人や鳥や虫、植物など
多くの友達がいる
星とも雲とも毎日話している
太陽と話せないのは月
お月様だけなのだ



いや、たまに話せる時はある
皆既日食や皆既月食の時だ



でもそれは何年かに1回


年に1回しか逢えない星より
逢える回数が少ないんだ



でも人は月など相手にしないで
年1の星ばかりを気に掛ける



























淋しかった









何十年、何百年経とうとも
淋しい気持ちは変わらなかった






胸が裂けそうな想いを
ずっとずっと抱き続けてきた













そして今、草の上に座りこんだ
小さき少年も同じく
この感情を抱いている


自分よりも
もっともっと幼き少年が
「淋しい」という感情を抱いてる










孤独と……戦っている

































しばらくの間
音のない時間が過ぎた

星は空の中でさっきより騒がしく輝いていた


少年はやっと顔をあげると
騒がしくなった空を見上げた











「えっ…………?」





少年は驚いた
空を見上げると
真っ先に少年の目に映ったのは
涙を流した半月だったからだ






「お月様?どうして…………」



少年は驚きを隠せずにいた





──そう…私は半月。
  満月のように…最高の光を
  君に浴びせ、慰めたり、
  三日月のように君を乗せて
  夜空の冒険も……できない。
  僕は君に何もできないんだ

  私はとても酷い……
  ごめんね………
  本当に、ごめんね………






お月様の涙は少しずつ
少年の近くの草を、
大地を濡らしはじめた





お月様は泣き止もうとしたが
涙は瞳から一粒一粒溢れていった
それはまるで雨のように
少年にも降り注いでいった



少年は立ち上がった



少年の目の中には
泣いてる半月様の姿が映り
少年の耳の中には
涙の雨の落ちる音が響いた

そして少年は全身で
涙の雨の重たさを感じていた





「……泣かないで、お月様。」


少年は言った


「泣かないで。」



お月様は泣き止もうとした



──でも………





「みんなが安心して眠れるのも
 お星さまが輝けるのも
 全部お月様のおかげだよ。
 もしもお月様がいなかったら
 みんな安心して眠れないし
 お星さまも輝けないんだよ。
 みんなに必要とされてるのは
 お日様だけじゃなくて、
 お月様もなんだよ。

 僕のために泣いてくれたこと
 僕、すっごく嬉しいよ。
 だから……ありがとう。
 お月様、ありがとう。」





騒がしかったお星様たちは
お月様のために
いつもより頑張って輝き始めた

涙の雨は星の雨へと変わり始めた

星の雨は夜空の中を
輝きながら流れていった



少年はお月様に笑顔を見せた
お月様も少年に笑顔を見せた
お星様も笑顔を見せた


















みんなが眠りについた頃
光る夜空の下を
1人の少年はクルクルと踊った
笑い声は空高く響き
光は空を埋め尽くした





──ありがとう。みんな。





お月様はこの光の夜を楽しんだ
そして絶対に忘れないと誓った


長い長い夜はこの時だけ
とてもとても短く感じられた



























そして光の降る夜は
終わりを迎えようとした





──みんな、本当にありがとう





西の空に沈みかけたお月様は
お星様と1人の少年にお礼を言った。





「お月様の方こそありがとう」





少年は笑顔を見せた
お月様も笑顔を見せた


──『光の夜』のおかげで
  初めて自分は月で良かった
  と思ったよ。
  『僕も必要とされている』
  と教えてくれてありがとう。
  だから私も1つ教えよう。





「?」





──あのね………
















東の空から光が漏れはじめた
お日様が目を覚ましたのだろう





──じゃあ私は寝るとしよう
君もちゃんと寝るんだぞ





西の空にお月様が
段々段々と沈んでいく
お月様はゆっくり目を瞑った





「お月様!」





少年は駆け寄った





「お月様、本当にありがとう。
 僕楽しかったよ。
 また……また会えるよね?
 またお話しできるよね?」





お月様は頬笑んだ





──今度は友達と一緒においで
  次にお話しするのは
  君に友達ができた後だ





「!…………………分かった。
 僕すぐに友達つくるね
 友達と一緒にここに来るね
 だから、そしたらまた……!」






















お月様は白銀に染まり
『またね』の言葉を残し
眠りについた

お星様もゆっくり眠りについた



東の空のお日様は朱く燃え始めた





少年はまだ西の空を眺めていた
そして静かに頬笑んでいた。





「ありがとう。お月様」





少年は歩きだした
自分の家に向かい歩きだした

お月様の言葉を胸に
一歩ずつ進んでいった















──あのね…
  人は誰しも1人なんだ
  でも決して独りではないんだよ






        〈終わり〉