1176入力トランス UTC O-12とP-12
UTC O-12は1176の入力に使われているトランス。
上の写真のように、1176に実装される場合はO-17というシールドケースに入れられるのでO-12そのものを見ることはできないが、この時代の他のUTCのトランスがそうであるように、本体にはピン配とそれぞれのインピーダンスがプリントされているはず。あまりに古いとロゴと型番がプレスされているだけ。
UTCの「O」(オー)シリーズは使用目的、インピーダンス、レベル値などの違いで30数種類あり、アルミボディでトランスとしてはとても軽く、一部の例外以外のほとんどの機種の重量は1オンスなので「OUNCER」という登録商標名がつけられていた。日本での「オンス」「OZ」という読み書きはオランダ由来で、アメリカでは「アウンス」の発音に近いらしいので「アウンサー」と呼ぶのが正しいのかな?
まあともかくこのO-12はRev.Fまでの7000台弱に搭載されていた。
UTC=United Transformer Companyは1966年にTRW社へ売却されているので、1176に使われていたものは例外なくTRW社製。だが少なくとも1960年台はUTCブランドのまま製造を続けていたし、TRWに変わったからといって品質が変わったという意見も今のところ見かけない。後年TRWとのダブルネームからTRW社単独ブランド表記へ転換し、その後また身売りされて製造は完了。
現在中古品や未使用デッドストックの入手は全く不可能ではないが、UTCトランスはどの品番も総じてオーディオ的な評価が高く人気があり、O-12はさらに1176の異様な高騰に引っ張られて補修や自作パーツとして極端に高騰してしまっている。
同一仕様品はCinemagからと、1176コピーキットを販売しているところからも独自に製作し販売しているようだが品質はどこまで似ているのかは試したことがないので不明。改造やコピー製作にあたってはよりオリジナルな物、独自なもの、何を求めるかによって選択は変わると思うが、O-12は製品としては汎用品だしインピーダンスさえ極端に違わなければ他のものでも流用は可能と思う。
O-12はプライマリ50・200オーム、セカンダリは50・200・500オーム。
ミキサー入力用途に販売されていたのでマイク受けとしては無難な数値。
1176では逆に接続され、アッテネータのある入力側が500オーム、本体側が200オーム。入力レベルは+8dB。
UTCのラインナップに「P」というものがある。
カタログ上は「O」の次のページにあり、品目は11種類とOの半分もない。そのうち真空管用と音声出力用が3個ずつで、音声入力に使えるのは5個。
ボディは樹脂の一種のベークライト製で径も長さもOよりも一回り大きい。端子は円柱の8ピンで真空管用のオクタルソケットをそのまま使用できる。altecのミキサーなどにオプションで差し込むトランスやオペアンプと同様な形状。
カタログには「OとPは数字が同じなら電気特性は共通」と記載されており、形状違いの兄弟姉妹ラインナップの位置づけで数字が同じなら仕様はコンパチ。PシリーズにもP-12という型番がある。
つまりはマウントさえどうにかできればO-12に置き換えて使用できる。
価格はタイミングにもよると思うが、O-12よりは概ね安価。とはいえこれも売り物は少ないのだが、自分は運良く海外相場よりも安く、O-12を基準にしたら考えられないくらい安価に入手できた。1964年製なのでTRWに買収される前のもの。
今までO-12単体の音を聴いたことが無かったので、せっかくだから試聴。
AMEK BC3のインサートにつないで適当に音出し。
レンジも分離も解像度も良い。なるほど1176の音だな、という印象。ここで1176の音質の方向は決まっているのだろう。
トランスのインプレではないので他の物の感想は書かないが、marinairは万人受けする音なんだろうな、と改めて感じた。でも個人的には軽やかなUTCのほうが好きかな?クオリティそのものはどちらも遜色ない。
トランスはそう簡単には壊れないし、当面は具体的な使用計画は無いけど、眠らせておくにももったいない、何かに使いたくなる音質。