1176の中で何が起こっているのか その1(改) | junker-life

1176の中で何が起こっているのか その1(改)

ちょっと横にそれて、自分の記憶整理のためにも1176の解説。

作りがいい加減だのすぐ壊れる、日々の調整が面倒だの散々な言われような1176。

こんな面倒なもの所有するならプラグインのほうが安くてたくさん使えて便利。

全て事実ではあるが、発売後55年経ても実機の人気は高い。

中で何が起こって何が行われているのか、調べてもあまり出てこないのでここで少々整理してみる。プラグイン派の方も中身知ってたほうが良いでしょう。

というわりには優しくはない。でも素人解説だから眉に唾つけるの忘れないように。

 

 

これはRevisionDの回路図。基本的な回路はBから変わらず、C以降「LN=ローノイズ」機能が追加されたもの。LNといってもB以前より6dB改善したのに過ぎない。他にはC以降は抵抗が昔風の茶色くて角ばったカーボンコンポジットではなくなり、今風な物に変更。

 

 

機能的な区分け。GRは機能しなくても入出力が生きていれば音は出る。

 

修理改造前のうちのRevB。メーター以外は正真正銘のオリジナルなのでRevB購入の際はご参考に・・・

 

レイアウト。文字は書いても読めなさそうなので回路図の色で判断してね。

回路図のDよりは入力段のパーツは少ない。

 

 

音の流れは、回路図、本体ともに左上から入力していきなりアッテネータに入る。アッテネータと言っても構造は2連のカーボンボリュームポット。頻繁にいじるのですぐガリる。交換してもすぐに。構造上仕方ない。

オリジナルの公称数値は600Ωでポット本体にもそう記載されているが、620オーム抵抗2本と組み合わせての600Ωなのでポット部分の抵抗値は異なる。うちのものの実測値は35kΩと300KΩ程度なので抵抗値的には微調整程度で音量をコントロールする。こんな数値はポット単体での入手は不可。

 

入力トランスはUTCのO-12。汎用品で1176発売よりもずっと前から存在しているので、運が良ければ単体での入手は可能。UTCは世代によって同じ名前でも規格を変更していたものもあるので、あまり古いと1176の物とは数値が異なる可能性がある。

接続は本来のプライマリ・セカンダリとは逆。アッテネータは600Ωだがトランスは本来はセカンダリだった1-5ピンの500Ωで受ける。セカンダリに転じた6-8ピン側は200Ωで回路へとつながる。

トランスの前にPOT型アッテネータがあるとガリが出やすい、というか目立ちやすくなてしまうのになぜ?と思ったが、トランスが最大8dBの入力なので過大入力から守るためと思われる。

入力にO-12が入るのはRev.Fまでで、RevG、Hはopamp入力になりトランスは取り外されアッテネータも単連POTになる。

 

トランスを通過し、すぐにFETがつながる。このFETはゲインリダクションをするもので直接音は通過せず、音質そのものにはあまり関与していないが、FETコンプの特徴的な歪みを生む効果がある。ブラックフェイスのRev.CのLN以降はローノイズ化と同時に歪率も改善したので「ブルーストライプはより歪む」と言わる所以はここにある。オリジナルのFETはテレダイン製U2244で一部の1176にも使われていたという情報もあるが真偽は不明。調べても仕様などは出てこない。実装されているものの型番は「DF60214Q」で金属製円筒形。いずれも現在はまず絶対に入手不可能。だがRevBの回路図には同時に「2N5457」とも記載されている。「DF60214Q」はうちの測定器にかけてもエラーが出るし、データシートも無く詳細不明だが、DF60214QはU2244か2N5457のカスタム品かセレクト品なのかも知れない。ちなみにRevAでは入力2段目、出力初段にもDF60214Qが使われている。

マニュアルには「こことメータードライブのFETは特性を揃えるように」と記載があるが、メーター側はリダクション値を実測しているのではなく、GRからのDCを利用して「リダクション動作を真似して表示」しているという事情があるので揃えとけ、ということ。

修理、改造、新規の製作には2N5457を使うことになるが、それは今でも入手は容易。セントラルは秋月で、オンセミ(旧フェアチャ)は工夫すれば国内でも入手可。

ちなみにギター用のリミッター、ダンアームストロングの「オレンジスクイーザー」も2N5457を使用していた。

 

コンプレッションされた後、OUTPUT GAINの回路から後は一見普通に見えるが、最初のトランジスタをFETに代えると1176より古いマイクプリアンプUA1108の回路そのもの。出力トランスもRevEまでのUA5002と同じで、フィードバック付きの特殊なもの。UA5002は先に仕様が決まり、製造メーカーは後から決まったそうでUAのオリジナルらしく単品純正は補修用か、1108か1176をバラさない限り入手は困難。

Rev.Fからは回路が変更になり構造が異なるB11148、12614へ変更される。B11148はLA3など、12614は各種EQなどと共用。

 

電源は音声本線はDC+30V。GRはトランジスタ段ではDC+30V、整流後はDC-10Vを用いる。どちらもレギュレータではなくツェナーダイオードで電圧を作っている。

30V/10Wのツェナーは国内で売っているのは一箇所しか知らない上に、極性が逆。

ツェナーは飛ぶと元の電圧がもろにかかり、半導体のほとんどが飛ぶので新たに電源を組む必要がある場合はレギュレーターを使用することをお勧めする。

 

OUTPUTボリュームは入力と出力の間にあるが、そのボリュームの「プリ」からGR(ゲインリダクション)回路へ分岐されている。

ボリュームから送られた後Ratio(比率)スイッチで分圧されて音量調整が行われ、入り口であるATTACKツマミのスイッチへ。

しがってリダクションの深さはINPUTの音量とRatio比で決まる。

 

GRではトランジスタ、コンデンサ、ダイオードで音声からDC信号を取り出す。交流の上下ともに整流するので「全波整流」となる。DCといっても音に連動して動くので厳密には交流かもしれない。

ここは箇所によってはかなりハイインピーダンスになるので、普通のテスタを当てても実際の数値を得るのは難しい。

 

GR整流から抵抗・コンデンサを抱えたATTACKのPOTへ。

GRのDCにバイアスを掛ける必要があり、半固定抵抗で「Q-Bias」を設定。ここはFETを交換しない限りユーザーは触るべきではない。この調整をしないとコンプレッションしなかったり、掛かりすぎて歪みだらけになったりする。Q-BiasからReleasePotへ入り、Attackとミックスされる。

 

Ratioのスイッチは2回路で、一方は上記の通りGRへの音量調整、もう一方の回路はこのあたりに複雑に絡む。

全抵抗を通ったものは整流のバイアスへ。スイッチで選択されたものはReleasePotへつながる。ReleasePotは5MegΩで生産しているメーカーは少ない。国内外メーカーのラインナップでは1MΩが最大値ということがほとんどで、基本的には特注するかデッドストックを探すしかない。Potは5Megだが、270Kオームを抵抗を並列に走らせているので実際の抵抗値はそんなには高くはないが、調整する値はとても繊細で微妙、ということになる。

 

AttackとReleaseがミックスされ、入力とメーターのFETへ送られる。

入力のFETは単純に言えばボリュームそのものの動作をする。入ってきた音を元に自分で自分の頭を叩くような動作。コントロール回路そのものに音が入り込むVCAよりは音質面では有利かもしれない。

 

Releaseの充放電をするのは入力段近辺のコンデンサ。GR回路と入力段FET近辺のいくつかのパーツは漏れ電流に厳しい。同等品だと思って数値だけ合わせて交換してもうまく動作しないことも。コンデンサの種類やダイオードの性能・仕様には注意が必要。交換の場合は可能であれば同じものか、同一スペックの後継品を使うのがいい。

なお、GR信号として送られるのはマイナスの電圧になる。

 

メータードライバ回路はGR表示にのみ動作。パネル面からマイナスドライバで調整するのはGRの表示だけで、直接の「かかり」には関係しない。

基板上にも「Null」調整があって、R74の両端電圧を0Vに調整した上で、GRで0dB表示させる必要がある。お互いに押し引きしながらうまく出会う位置を探る。

ここは結構ずれるので、定期的な調整は必要。調整方法はRevisionによって異なる。のちのRevisionのメータは安定したオペアンプドライブになるのでこのような調整は不要になる。

 

VU表示は、dBm規格では基準内のVUメータと600Ωトランスならば3.6Kオームの抵抗を介すればOKという決まりがあって、とくにドライバ回路は必要無いので抵抗一本でのドライブ。そうは言ってもズレはあるので、うちのものは抵抗値を少し下げて半固定抵抗を入れて調整している。8dB表示は8.2KΩ。

 

出力トランスはUA-5002。1176が初出ではなく、その前から存在したマイクプリアンプ「1108」がオリジナルで、1176の

 

プラグインとの比較は自分ではやったことはないが、海外のエンジニアがRevBと確かFと現行品実機、UAのプラグインBluestripeと比較した映像は観たことがあって、プラグインの掛かり自体はいい線いってるけど音そのものは似てないな、という印象だった。

どっちがどう、というのは主観的な批評は避けるけど、RevB実機に関して言えば通しただけで音質はうっとりするような方向に変わる、とだけ。

 

全押し・ブリティッシュモードはどうなってるのか?まで書こうと思ったけど、長くなったのでまた今度。