2018年12月26日(水)
 

新宿バルト9で、『アリー/スター誕生』。

 

いやもう、本当に素晴らしいですね、レディー・ガガ。歌唱も演技も存在感も圧倒的。さらにソングライターとしての実力までもがビンビン伝わってくる。オスカーもグラミーも獲っちゃうよね、これ。ていうか獲ってほしい。獲って感動的なスピーチして涙を流し、それ見て我々も泣く。っていうところまででひとつの物語が完結するんじゃないでしょうか。

と、ガガさんの素晴らしさだけ書いて感想終わりにしてもいいんだけど……やっぱお話についても軽く書いときます。ネタバレするやもしれないので、これからご覧になる方はご注意を。

 

脚本的には僕は「上手いなぁ」と「下手だなぁ」の両方感じましたね。「上手いなぁ」はガガとブラッドリー・クーパーのそれぞれの役柄にそれぞれのリアルでパーソナルな体験を重ねて描いてみせたところ。ガガは実際ストリップクラブのダンサーで生計を立て、シンガーの前にソングライターとしてインタースコープと契約したあとで歌手活動をスタート。ブレイク後はひとつ成功する度に恋愛がダメになったり大事な人を亡くしたりしてる人で(←というのはNetflixのドキュメンタリーで描かれてました)。一方、クーパーさんも過去にアルコール依存症になって治療の経験があると。そりゃあ気持ちが入って迫真の演技になるってもんだし、そのへんの背景を知らずに観たって十分引き込む力があるのだから知ってて観た人にはもっと「くる」ものがあるでしょう。

 

一方「下手だなぁ」と思ったのは、話がさっさか進みすぎて、ふたりの心情の細やかな部分がまるで描けてないところ。特に中盤以降からだいぶ雑なんです。とりわけクーパーさん。せっかく治療してよくなってんのになぜガガさんのジャーマネの一言でそういう選択をする? そのへんの感情の機微が描かれてないから、話を知って観てた僕でも「え。うっそーん」ってなりましたわ。はっきり言って、ちーっともクーパーさんに共感できない。

 

心情の細やかな部分を描いてない、っていうのは最近だと『ボヘミアン・ラプソディ』もそうだったけど、あれは前にも書いたようにあれだけの長い歴史(フレディの生涯)をあの時間で描ききるためのあえての省略だと納得できるもので、僕はむしろその上手さを感じました。けど、『アリー/スター誕生』はそこを描かずにどうするっていう肝心なとこがヌケ落ちてるように僕には思えたんだよなぁ。

 

前半はとてもよかったんです。無茶ぶりで初めて一緒に歌った「シャロウ」で、ちょい泣きしましたもん。あそこが僕的にはピーク。それより前の「ラ・ヴィ・アン・ローズ」のシーンもよかったよなぁ。まだアリーがアリーだった頃のよさね。けど、アリーがソロで成功する過程でリアルのガガみたいになってったあたりから「ん?」っていう感じが出始めて…。

ジャクソン(=クーパー)としても、オレは魂で歌えるアリーに惚れたわけでダンスして軽い曲を歌う(デビュー当時のレディー・ガガ的な)ポップスターに惚れたわけじゃない、みたいなムードになるわけど、それもどうなんだ?! っていうね。ダンスポップ的なものは魂を売ったニセもので、心を込めたバラードがホンモノだみたいなその描き方と結論への持って行き方、ダンスポップ的な音楽も好きな僕にはなんか腑に落ちなかったりもして。

 

つうわけで、レディー・ガガは本当に素晴らしかったけど、映画として大満足は出来なかった、というのが感想のまとめです。因みに映画観る前に聴いたサントラ盤は最高。傑作。楽曲の完成度高すぎだし、ガガはもちろん、クーパーさんの歌の上手さも光っていてオススメです。