2017年12月3日(日)

 

品川クラブexで、Good Bye April。

『サーカスからの脱走』と題された2daysワンマン、その2日目。

 

下北沢ガレージで1日の金曜に行なわれたのがオールスタンディングの「銀の熱狂」編で、品川クラブeXで昨夜行われたのが席ありの「金の喝采」編。彼らを育てたライブハウスでの「ライブ」と、初めて立つホールでのインティメイトな「コンサート」。異なる場所で、異なる形態、異なるコンセプトによる2daysだった。

 

まず改めて1日の下北沢ガーデンを振り返ると、ツイッターでも書いたが、それはホールでしっかり聴かせる「コンサート」ができるようになった今の彼らが今このタイミングでスタンディングの「ライブ」をやることの意味がハッキリと感じられた内容。原点を確認しつつ、その上で新しいことに挑まんとする4人の意志が音楽になって躍動していた。ロックバンドのライブの熱狂とはもちろん質は違うが、バラードも含めて確かに血をわきたたせる熱いものが演奏に表出し、観る者たちを巻き込んでいく感覚があった。ポップスにはポップスなりの熱狂がある。その証明のような「ライブ」だったと思う。そして出音はというと、4人の鳴らす音がひとつのカタマリになって降って来る感覚の味わえたもの。調和しながらも倍化して鳴っている、そんなライブハウスらしい音のよさだった。

 

それに対して昨日の品川クラブeXは、さすがに音の分離がよく、エイプリルの4人とゲストミュージシャン3人(キーボードの清野雄翔、パーカッションのぬましょう、チェロの林田順平)それぞれの音の個性がクッキリ目に見えて伝わってきた。アコギやチェロの鳴りの繊細さも、アンサンブルの豊かさやグルーヴのうねりやダイナミズムも過不足なく伝えてくるハコだなと感じられ、前から音響のいいホールだとは思っていたが、改めてそのことを強く思った。会場自体の醸し出す上品なムードもエイプリルや観客の層に合っていたし、延ちゃんの手作りだというフラッグと会場のシャンデリア、それにミラーボールとの相性もよく、ちょっとしたサーカス感も確かにそこにあった。

 

そんなクラブeXのまろやかとも言える音響は、倉品くんのヴォーカルの個性を際立たせてもいた。彼の歌声のよさが非常に活きていたのだ。とりわけ前半から中盤にかけて、倉品くんはガレージのライブよりもずっと丁寧に歌っていて、同時に力強さもあった。押しと引きをガレージのときよりもしっかり意識し、尚且つ落ち着いて歌っているようだった。

 

メンバー4人だけでのライブハウス演奏と、ゲストミュージシャンも加えたホール演奏。当然その違いはあるわけだがしかし、それを差し引いても現在のエイプリルにはクラブeXのようなほどよい大きさのホールのほうが楽曲の持ち味やアレンジのよさをきちんと伝えるのにより適しているんじゃないか。彼らも楽曲もそのような成長を遂げていることが音響と見え方の両面から感じられたし、それはまた今回のようにライブハウスと小ホールの両公演を続けて観たからこそ感じられたことでもあったのだった。

 

印象に残った場面はいくつもあって、書きだしたらキリがない。が、特筆すべきは昨日のショー全体の構成力・構築力。曲間をあけず、比較的アップめのナンバーを立て続けに演奏していった前半。アコースティック・セットで味わい豊かに3曲聴かせたのち、そこから一転してクリスマスのキラキラ感を表した中盤。ホッコリと昂揚の絶妙なバランスで会場の一体感を生み出した後半。そして未来に続いていくようなアンコール。その展開の妙に唸らされた。

 

「金の喝采」一夜だけでもそこにハッキリと物語があることがわかる構成だったわけだが、さらに唸らされたのは、「銀の熱狂」からの繋がった物語、対をなす物語がそこで展開されていたことだ。わかりやすいところでは、例えば「銀の熱狂」のラス曲だった「te to te」が「金の喝采」のオープナーに。「銀の熱狂」の開幕曲だった「サーカスからの脱走」は「金の喝采」の大ラス曲になっていた。その「サーカスからの脱走」は「銀の熱狂」ではまさしく物語の始まりに相応しいイントロダクション感…導入感があったものだが、「金の喝采」のアンコールにゲストミュージシャン3人も揃って(ブズーキを演奏した林田順平さんが非常にいい味を出していた)演奏されたそれは、まさに大団円を感じさせるあり方だった。両日観た人ならその両方合わせてのなかなか壮大な物語性がそこにあり、彼らのメッセージもそこに託されていたこと込みで感動を得たことだろう。

 

その物語やメッセージをこれこれこういうものでと分析または解説するのは野暮というもので、受け止め方は観た人それぞれだし、僕は僕の受け止め方をしているにすぎないし、それでいいのだと思う。が、延ちゃんと倉品くんを中心に組み立てられ、メンバーとゲストミュージシャンたちがそれを共有し、そして美術で関わった井上絢名さんや開演時のアナウンスを担当されたキャラメルボックスの鍛治本大樹さん、音響や照明のスタッフの方々もそれを共有して「サーカスからの脱走」と題されたひとつのコンセプチュアルなライブ~コンサートを作り上げたというその事実は形にも記憶にも残ること。メジャーではなくインディーで。誰かに頼るのではなく自分たちと出会った仲間たちで。それはとても価値のあることだし、ステキなことだし、夢のあることだ。これからも年に1回くらい、こういう広がりのあるコンサートを見せてくれるのを楽しみにしたい。

 

最後に個人的にとりわけ聴けてよかった曲、強く印象に残った曲を各日2曲ずつ挙げておくと……。まず「銀の熱狂」編は新曲「真夜中のトビウオ」と「宇宙行進」。「真夜中のトビウオ」は今までの彼らにないリズムを持った、エイプリルなりのネオソウルとも言えるようなグルーヴあり曲で、青春のただ中にいるバンドが大人のバンドへと移行するのに必要な曲…なんてふうにも思えたり。「宇宙行進」はイントロの同期させた音が鳴った瞬間のキラキラ感にもっていかれた(それ、会場にいたみんながそうだったと思う)。そして「金の喝采」編は「アドバイス」と「Start Over」。「アドバイス」はぬましょうくんのコンガが入ったことでさらに70年代前半的な歌謡ロック感とグルーヴ感が増して実にかっこよかった。林田さんのチェロと倉品くんのふたりだけによる「Start Over」は……これはもうね、聴く度に倉品くんの実体験とその風景が目に浮かんできて条件反射的に泣いちゃうんですよ、僕。特に「君が手を振り小さくなった 滲んだ病院の白い窓」のあとのチェロの音色と旋律が本当にたまらなくて。またしても泣いちゃったよね。ほんと涙もろくていかんです。

 

*その「Start Over」がどういう曲かは、『ニューフォークロア』が出たときに行なったこのインタビューの終わりのほうを読んでいただければと。http://musicshelf.jp/pickup/id20075/