2016年9月17日(土)

 

横浜赤レンガパーク野外特設ステージで、Blue Note JAZZ FESTIVAL。

 

去年の初開催に続いて、第2回目となるブルーノートジャズフェス。天気予報では雨だったが、予想外に快晴で、しかも暑い。夏が戻ってきたような1日だった。

 

去年の僕はA席のチケットを買い、BIRD STAGEと呼ばれるメインステージのアクトは席に座って観たものだったが、今年はスタンディング。因みにメインステージに一番近いS席の前売り料金が26000円、会場の真ん中あたりの椅子席となるA席が19000円、スタンディングが10800円と、値段にはかなり開きがある。どこを選んだかでフェス全体に対する印象はかなり変わる……ということが、去年と今年で席ありとスタンディングの両方を経験したことによってハッキリした。

 

DIZ STAGEと呼ばれる(メインステージより)小さめのステージのほうに観たいアクトが集中しているのなら、一番安いスタンディングで十分。DIZ STAGEの前のほうまで自由に行けて、かなり至近距離でアーティストを観ることができる。但し、席のあるエリアとスタンディングエリアは柵(ロープだったっけ?)で区切られて係員がチェックしているため、席ありのほうに動くことができない。よってBIRD STAGEでのアクトはかなり遠目に眺めることになる。おまけにスタンディング客のみんなが少しでも前で観ようと柵の近くに押し寄せるため、そこだけ混み合うことになる。だが、ほんの目の前のA席があるところはガラガラで、ただ無人の椅子が並んでいるだけ。場内ど真ん中のPAの後ろも誰もいない空き地のようなデッドなスペースになっている。そのすぐ後ろの狭い場所にスタンディングの客たちが大勢カタマリになって(身動きとれないような状態で)立って観ているわけだ。すぐ目の前に誰もいない空間が広がっているというのに、そこには行けないというその不自由な状態はシュールというか差別的というか、正直、あまりいい気持ちのしない作りだなぁと思わざるをえなかった。

 

座ってゆっくり観たい年配客のために椅子席のエリアを設けるのはいいことだし、それをひとつの特色として打ち出すのはブルーノートらしいとも思う。それはいいのだが、でもあんなに椅子席エリアを広々ととって、スタンディングエリアを狭くするのは、どうなのか。結局スタンディングで観る観客が一番多いのだから、いっそのことA席を丸ごと取っ払って、S席とスタンディングの2種にしちゃえば、スタンディングの人ももっとメインステージに近いところまで行けるのに…と思ったのだが、そうなると利益が出ないのだろうか。そのへんの事情はわからないけど、フェスなのにこんなにも料金によって条件~待遇の差があからさまなものはほかにないし、いい気持ちがしないという人も少なくないと思うので、こうした場内の区切り方は来年以降考えてほしいと切に願います。

 

と、長々と会場レイアウト問題について書いてしまったけれど、それを除けばこのフェスは出演者もいいし、毎年続けてほしいと思わせるものだ。去年はDIZ STAGEのほうの音響がいまひとつで出音がやけに小さかったのだが、それも今年は改善されていた。

 

まずはGOGO PENGUIN。着くのが遅れて後半20分くらいしか観れなかったのだが、個々の卓越した演奏スキルと緻密なアンサンブルに目を見張るものがあってたちまち引き込まれた。特に最後にやった曲のダイナミズムとグルーヴ感!  これはジャズクラブのような場所でまたいつか改めて聴いてみたい。

 

マーカス・ミラーをしばらくボーっと“眺めて”から、会場外にあるもうひとつのステージでThe Hot Sardines。レトロ・フューチャー感とスウィングするポップ・ジャズの楽しさ。奏者がタップを踊るなど楽しい要素もいくつかあるし、見栄え的にもよし。いい感じだったな。

 

会場に戻って、DIZ STAGEでMISIA×黒田卓也。まずは黒田卓也がバンドと共に自曲を2曲演奏。これがもう実にかっこよくて、しびれた。なんなら黒田さんとバンドだけを1時間観ていたいと思ったくらいだ。それから黒田さんがMISIAを呼び込み、彼女のオンステージ。MISIAは黒田さんによるジャジーなネオソウル風アレンジで「BELIEVE」を歌ったのだが、このアレンジとMISIAの歌唱がずっぱまり。そのあとのどの曲においても黒田卓也バンドとMISIAの歌の相性は予想を上回るほどによく、僕はちょっと驚いてしまった。こう言っちゃ失礼だが、MISIAがこんなに表現力のあるシンガーであることを、これによって初めて気づいたくらいだ(大昔に横浜アリーナだったかで単独公演を観たことがあったが、そのときはそういう印象を持てなかった)。デビュー・ヒット「つつみ込むように…」もアレンジ、歌唱ともに非常によかったが、最後の大バラード「オルフェンズの涙」ではなんとマーカス・ミラーがベースで飛び入り参加。直前に急遽決まったことだそうだが(実際、ステージ上で黒田さんがマーカスになにやら指示出しをしていた)、後半のマーカスのベース・ソロは聴きものだったし、その最中のMISIAと黒田さんのはしゃぎっぷりも可愛くかった。いやそれにしても黒田さん、吹奏者としてだけではなくアレンジャーとしても素晴らしいことが、この日のMISIA曲のアレンジによってまたハッキリしましたね。MISIAは黒田さんに出会って本当によかったんじゃないか。これ一度限りじゃ勿体ない。またやってくれたら僕は観に行きます。

 

続いてジョージ・ベンソン。本来しっかり観ておくべき人ではあったのだが、やはりスタンディングエリアからでは遠すぎて……。ここは割り切り、オフィシャルバーのあるエリアのベンチで休憩しながら聴くことにした。知り合いにも数人会えて話せたし、BGMとして聴く生ベンソンというのも贅沢でいいじゃないか、とか思ったり。

 

そしてこの日一番観たかったアンドラ・デイをDIZ STAGEで。真ん中近くのかなり前のほうに陣取って観た。結論から書くと、この日もっとも強烈な印象を残したのがこのアンドラ・デイだ。期待以上に素晴らしかった。群を抜いて素晴らしかった。圧倒的な歌唱力で聴かせるというよりは、雰囲気があるというかニュアンスに富んでいるというか。力を入れすぎずに世界を作っていくという意味でエイミー・ワインハウスを想起させるところがあったり、あるいはまたニーナ・シモンの成分を感じさせるところもあったり。で、途中で顔をごしごし拭いてメイクを落としちゃったりするあたりの素の私でいたいというあり方が可愛かったりもしたし。でも一方で女優的だなと感じさせるところもあったし。セクシーでもあるんだけどいやらしさはまったくなくてチャーミングっていうね。いやぁ、惚れましたよ、僕は。CDもいいけどライブのほうが遥かにいい。マイクの持ち方・使い方もいちいち絵になってて、最後のほうで倒れ込むようにして歌ったりしたあたりにも興奮させられた。この人はこれからどんどん大きくなるに違いないけど、いまこの段階で野外フェスで観ることができて本当によかったと思いました。

 

トリはアース・ウインド&ファイアー。初めのうちはスタンディングエリアからステージまでの距離がありすぎて音がバーンと響いてこず、なかなか入り込めずにいたのだが(近くまで行けないのがどうにももどかしかった)、それでも音に集中して観ているうちにその距離感にもまあ慣れてきた。で、アースのライブはこれまで何度も観てるが、何度見てもいいものはいいと実感。何せやる曲全てが名曲なのだから。いつも通りとはいえ、やはりいつもと異なる部分もあって、例えば星になったモーリスの写真をいくつもスクリーンに映しながら「暗黒への挑戦」(←あえて邦題)が始まったところなどは涙なくして観れなかったという。さらに「アフター・ザ・ラブ・ハズ・ゴーン」からの「リーズンズ」とかね。もう一瞬で僕は“あの頃のどこか”に連れていかれた気分だった。まだ10代の頃……アースの曲を聴いてこんなにメロディアスでうっとりするような音楽が外国にはあるんだなぁとしみじみ思っていたあの頃の自分に一瞬で戻れたというか。なんとも青臭い書き方になってしまうけど、音楽の力ってすごいなぁと、このとき僕は素直に思ってましたね。そうそう、もうひとついつものアースのライブと違うところがあって、それは途中でマーカス・ミラーが加わったこと。出てきてすぐにバーディン・ホワイトとステージ中央でベースソロ合戦し(そこ、両者の個性がよくわかる場面だった)、そのあとは普通にバンドの一員のように端っこで弾いていて。これもまたフェスならでは。こういう面白さがあるのだから、やはりこのジャズフェス、会場の区切りやらも改善して長く続けていってほしいものだと思ったのでした。