新宿ピットインで「2014春 梅津和時・プチ大仕事@新宿PIT INN 歌をつきぬけて。」
梅図さんの6日間連続公演「プチ大仕事」の3日目。ぼくが観るのは初日に続いて2日目だ。
この日の出演者は梅津和時、七尾旅人、青葉市子。
前半はまず市子さんと梅津さんのふたりで3曲。そして市子さんがソロで2曲、梅津さん・市子さん・旅人さん(さん付けで書くとなんでかしっくりこないので、以下、旅人)の3人で1曲。休憩挿んで、後半は梅津さんと旅人のふたりで6曲やったあと、市子さんも加わり3人で2曲+即興のセッションを延々と。
前半、市子さんの歌とギターと梅津さんのクラリネットの合わさったそれを聴いているときは、まるで深い森のなかにいるような錯覚にとらわれた。風が吹いたり空気が揺れたり虫とか鳥とか爬虫類とかが鳴いていたりするそのなかに溶けこむように市子さんがいるといった印象。特に音で風とか生き物の鳴き声とかを表現しているといったわけではないのだが、そんな気がしてしまうのだ。
彼女は生き物や草木に喋りかけるように歌っている……というとなんだかファンタジックにすぎる譬えになってしまうが、何かこう、ピットインという空間がどこかの森に繋がっているようなそんなふう。
そして梅津さんのクラリネットがそこに光や影を加えたり、丸みをもたせるようにして鳴り、そのアンサンブルで曲の膨らみが増していく。なにしろ市子さんの声と梅津さんのクラリネットは“溶けあう”という言い方がしっくりくる感じでそこで合わさっていた。
市子さんは、曲と曲の間にもハ~といった感じで歌うように声を出す。そして、見るからに楽しそうというわけではない温度低めの言い方で「楽しい」とつぶやく。いかにも楽しそうには見えないけれど、彼女は内で梅津さんと音を溶け合わせている実感を得ていて、だからそのような言葉がぼそっと口をついて出るわけだ。
因みに前半の最後、旅人も登場して歌われたのが彼の「エンゼルコール」だったことに「おおっ!」と唸ったひとも少なくなかっただろう。市子さんのあの歌声で歌われると、「そうだよ、天使なんだった」という実感の強度もまた増すのだった。
後半の梅津さんと旅人のパートは「星に願いを」から始まった。市子さんの歌を聴いていて深い森のなかにいる錯覚に陥ったと書いたが、旅人が自身でノイズを入れながら歌うそれを聴いていたら、今度はピットインが宇宙空間になった。重力がおかしくなる感じがしたのだ。
続いて「圏内の歌」が歌われた。
2011年・2012年といろんなフェスとかで旅人のライブを観て恐らく20回近くはこの曲を聴いたものだが、この日、梅津さんのクラリネットと重なったそれは、哀しみとか祈りとかの度合いがやけに強かった……気がした。恐らく旅人は、この曲をよく歌っていた2011年や2012年とはまたちょっと異なり、現在は現在のそういう思いで歌っていたのだろう。
この日の恐らくハイライトと言っていいものになったのは、市子さんも再登場して3人でやった「サーカスナイト」だ。市子さんは珍しく立ちでマイクを持って歌い、その声にはエフェクトがかけられ、ロボ声に。旅人曰く「アオバ・ウエスト」!
彼女は歌いながら、旅人がこの歌を歌うときにそうするように、タイトロープダンシング(綱渡りのような足取り)もしていて、それがちょっと可愛くもあったり。
彼女は歌いながら、旅人がこの歌を歌うときにそうするように、タイトロープダンシング(綱渡りのような足取り)もしていて、それがちょっと可愛くもあったり。
そしてまた、そこでの梅津さんのサックスの鳴りのグッとくること。これ、本当によかったなぁ。旅人はといえば、前半は歌いながらずいぶん咳をする場面が多かったのだけど、これもまた音楽の力なのか、この頃には咳がとまっていた。
続いて市子さんの「i am POD(0%) 」を3人でやり、そのあとの即興セッションはといえば、かれこれ30分近く続いただろうか。
曲の途中で「終わるつもり、全然ありませんから」と旅人。「曲としてはもう終わってますから、ご自由にお帰りください」と梅津さん。そう言いながらもまだ終わりたくないという気持ちから曲を展開させていく旅人。市子さんも素直に呼応し、それに合わせる梅津さん。旅人も市子さんも音楽が続いていくことの喜びを無邪気に感じているのがそのまま伝わってきて、なんかここは聴きながらにこにこしてしまったよ。
そして梅津さんの大人の音楽家たる柔軟さの素晴らしさよ。
そして梅津さんの大人の音楽家たる柔軟さの素晴らしさよ。
そんなこんなの、とてつもなく濃密な約3時間。
音楽は世界が終わっても続いていく。そんな気がしたライブだった。
圧倒的な音楽体験だったゆえ、しばらく余韻に浸らずには帰れなくなり、ピットイン近くの中華で紹興酒3杯。
