3月10日(土)


代官山「晴れたら空に豆まいて」で、KUMAMI、指田郁也、matsueri、ハルトラ。

イベント・タイトルは「心を合わせて」だ。


刺さる歌、浮かぶ歌、漂う歌、包む歌。
いろんな歌のあり方を感じた雨の日の夜だった。


この日の何よりの収穫は、指田郁也くん。
このライブの2週間ちょっと前に僕は取材で初めて彼に会い、その受け答えのいくつかがやけに印象に残ったこともあってライブを観たいと思っていたところだったのだが、そんな(自分にとっての)グッドタイミングで観ることのできた指田くんのナマ声には完全に心を持ってかれてしまった。


ピアノの前に座って一呼吸。
そして放たれた「あ~~」の第一声でつかまれた。
瞬間、空気の重量が変わった。
歌いながら徐々にその場を自分色に染めていくタイプではなく、彼はひと声で一瞬にしてそこを自分の場にしてしまえる歌手だった。


1曲目に歌われたのはデビュー・シングルの「bird」。
伸びやかで、声量もあって、説得力がある上、雰囲気もある歌声。
言葉もストーンと胸に落ちてくる。
“と~んで~、と~んで~”の箇所では、聴く者をも空へと誘う。


一音一音、一言一言に込める熱量がとてつもない。
流して発せられる言葉がひとつもない。


この日の2曲目は「君とさよなら」。
2ndシングル「パラレル=」のカップリングに収められていた曲で、僕は取材にあたって発売前に聴いていた曲だったが、録音物で聴いたときとは比べ物にならないくらい胸の深くに刺さった。
声の強弱、抑揚の付け方が見事で(かつ、わざとらしさもなく自然で)、切なさが大波のように押し寄せてくる。
その歌の情景がそこにそのまま立ち現れる。
完全に引き込まれた!


↓「君とさよなら」(途中まで)

http://www.youtube.com/watch?v=WZ7AuRurzu4


2ndシングル表題曲「パラレル=」は、録音物のほうはドゥービー・ブラザーズ「What a Fool Believes」を想起させるところもあるポップなAOR調楽曲としてアレンジされていたが、ライブではピアノ一台のためそのテンポ感とは異なり、重みと軽みのバランスがいい聴こえ方をしていた。
録音されたそれよりも、ピアノの地の音を強く響かせるあり方で、これもいいなと僕は思った。


そして最後に「一番大切にしている曲」と言って歌われたのは、「笑ってよ」という題のバラード。
初めて聴いたのだが、なるほど大切にしている曲というだけのことはある。
“笑ってよ 笑ってよ 笑ってよ”とサビで繰り返されるそこから、この歌を書いたときの張り裂けんばかりの想いがビンビン伝わってきて、聴いてて込み上げてくるものがあった。
この曲は凄い。
昭和の失恋歌謡が好きだった世代にも刺さるだろう曲だ。


正直、これほど深いところに刺さる歌をうたう人だとは、CDを聴いた限りでは気付かなかった。
今のところシングルはAOR調の軽快な曲で押していってるようだが、本領発揮曲は例えば2曲目に歌われた「君とさよなら」や最後に歌われた「笑ってよ」のような切なさ爆発のバラードのほうであるようだ。
それらを聴きながら僕は、彼ならいつか尾崎豊「I Love You」に匹敵する歌もうたえるに違いない、または徳永英明のように多くの女性の心を鷲掴みにする歌をうたえるかもしれない、とも思っていた。


指田郁也くん。
およそ30年ぶりにシーンに登場した、女性言葉の歌の似合うシンガーである。


さて、2番手はmatsueri。
前半はギターの弾き語り、後半はピアノの弾き語りという形で、それぞれにいい雰囲気。
ふわっと柔らかに聴き手を包む声だが、友達の結婚にあたって書いたというラス曲は心がこもっていて特によかった。


続く3番手はハルトラ。
女性歌手と男性ギタリストのデュオだが、この日はサポートでパーカッションも。
ボサノヴァ・タッチの曲にほどよく大人の柔らかさと落ち着きが見えていい感じ。
春風系なんて言い方もありか。
エド・シーランの「レゴハウス」をカヴァーしたりもしていて、あとでヴォーカルのharukaさんと少し話したら、エドが大好きなんだそうだ。


そしてトリはKUMAMI。
思うところあってしばらく間をあけてたので、彼のライブを観るのはだいぶ久しぶりだった。
この日は五十嵐あさかさん(チェロ)と岩川光さん(ケーナ奏者だが、この日は中世リコーダーで参加)との共演ステージ。


五十嵐さんのチェロも入ったインストのあと、(所謂メジャー・デビュー曲だった)「雨の翼」が歌われた段階で、僕は「お!」と思った。
KUMAMI、歌に気持ちが入っている。
去年何度か観たバンド編成によるライブではそう感じられなかったことが度々あったが、この日は違っていた。
落ち着きと集中力があった。
隣に座っていた知人に、思わず「今日、いいじゃん」と囁いてしまったほどだ。


しかも、その状態が最後まで続いた。
この日の彼は珍しく集中力を途切れさせずに歌い、またピアノの大きなミスタッチもないまま最後まで行ききったのだ。

毎回それができないのは明らかな彼の弱点だが、しかし集中して歌え、集中してピアノが演奏できているときの彼の表現の強度はやはり相当のものである。


そしてこの夜、それができていたのは、五十嵐あさかさんの技量に依るところも大きいのだろうと思った。

KUMAMIはバンドスタイルから弾き語りまでその時々でアプローチを変えてライブを行なってきた歌手だが、僕の実感としてはやはり五十嵐さんとの相性がもっともいい。
五十嵐さんのチェロによるピンと張り詰めた音色に、KUMAMIはちゃんと呼応してプレイしているのが感じられるからだ。
また、五十嵐さんとプレイするときの彼は甘えてないし、依存してない。
そこがバンドのときとの大きな違いで、だから同じ曲でもバンドでやるときと五十嵐さんとやるときとでは歌から見えてくる景色が違うのだ。


それからこの日は「ボーダーライン」という曲で岩川さんのリコーダーが加わったのだが、そこではどこかアジア的な(大陸的な)広がりが見てとれもして、それは今までなかった部分だったので可能性が感じられた。
次の一歩が見えた気がした。


相変わらず新曲が増えてないのは残念に思うしかないところだが、この日感じたようにやはりほかの誰にもうたえない歌をKUMAMIはうたえる人なのだから、高めることを怠らないでほしいと切に願う。
もっと。もっと。もっといけるはずなのだから。



↓この日演奏された「0[ZERO]」。五十嵐さん、すげー。

http://www.youtube.com/watch?v=0PqLkhc8uW8