前の記事の続きです。
4月13日(月)
恵比寿リキッドルームで、メロディ・ガルドー。
フィンガー・スナップをしながら歌った1曲目(スタンダードの「ノー・モア・マイ・ロード」)に続き、2曲目はバンドが入って、メロディはタンバリンを叩きながら1st収録の「スウィート・メモリー」を。
バンドはウッド・ベース、ドラム、トランペット、テナー・サックス。
ウッド・ベース奏者で、曲によってはギターも弾いていた顎髭の長いサンタクロースみたいな男はケン・ペンダーガストで間違いない。
ほかはメンバー紹介を聞き流してしまって覚えてないが、ツアー・バンドは固定のはずなので、急な変更がなかったとすればドラムがチャールズ・スターブ、トランペットがパトリック・ヒューズ、サックスがブライアン・ロジャーズで合っているはず(確認したわけじゃないんで、違ってたらゴメンナサイ)。
わざわざ名前も明記したのは、2ndアルバムのライナーにも書いた通り、このツアー・バンドとの絆をメロディはすごく大事にしていて、彼らのアイディアも新作を仕上げるのになくなてはならないものだったと言っていたから。
実際このバンド・メンバーたちの演奏がまた素晴らしかった。
いや、どのバンドでプレイしてもOKのバカテクたちという意味ではない。
それよりも、メロディの歌に“寄り添う”プレイをするという意味で秀でているのだ。
メロディは大きな音を嫌う。
音で埋めていくようなあり方を嫌う。
1stアルバムのライナーで紹介したが、彼女の言葉に次のようなものがある。
「特に私にとっては“小さい音”がとても大切で、例えばドラムだったら、勢いよく早く叩くことよりも小さくゆっくり叩くことを求めているわけで、それはなかなか難しいことだと思うんだけど。でも(アルバムに)参加してくれたミュージシャンたちは私が言葉で言わなくてもみんなそのことをわかっていてくれて……素晴らしかったわ! そしてミキシングの段階でもどんどん余計なものを削ぎ落としていった。私は、美は音の間(ま)にあると思っているし、私自身が相当のミニマリストなの」
よってドラマーはブラシ中心だったし、トランペットやサックスも多くの部分でミュートして、ベースも静かに鳴っている。
メロディがギターを弾いて歌う曲もあったのだが、彼女も決してジャーンとはかきならさず、独特の感じでコードを押さえるだけの音の鳴りによって歌を際立たせていた。
3曲目の「コンフォート・ミー」でメロディはアコギを弾いて歌い、4曲目で披露したビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」では中央のマイクの前で歌い、5曲目の「ウォリサム・ハート(夜と朝の間で)」ではピアノを弾いて歌う……というように、1曲ごとに変化をつけ、それに応じてバンドのメンバーたちの絡み方も変わる。
息の合ったツアー・バンドじゃないと、こうはいかない。
ところで、メロディは全体的に黒系に統一したカッコであり、ずいぶん盛っている感じの髪だけが鮮やかなゴールドなので見た目的にも惹きつけられるところ、大あり。
カリスマ性なんて言いたくなるような感じも身についている。
そして、佇まいも仕草も、いちいち雰囲気がある。
「エイント・ノー・サンシャイン」を歌っているときは声の出し方もそうだが、そのときの腰つきと手の動きが実にこう官能的というかなんというか。
手先・指先に至るまで全身に歌表現が行き渡って自然に動いてしまう…といった感じだった。
そして、ブルージーな曲ではどこまでもディープに、明るいタッチの曲では柔らかくと、曲によって声のトーンも(歌い方も)変化する……のだが、その変化が自然で、「曲のタッチに合わせて変えてます」といった意図的なわざとらしさが皆無。
哀しみや痛みを知っているメロディと、喜びや安らぎを知っているメロディが交互にそこに現れるといった感じなのだが、当たり前だがどちらも彼女の中に自然に同居しているということがわかるのだ。
1st収録のリラックスしたタッチの曲「オール・ザット・アイ・ニード・イズ・ラヴ」に続いては、2ndの1曲目で屈指の名曲「ベイビー・アイム・ア・フール」。
アルバムで聴く限り、この曲の肝はヴィンス・メンドーサの指揮による優美なストリングスである。
が、ここでのバンドは冒頭に明記したような編成だ。
ストリングスなしの「ベイビー・アイム・ア・フール」はどうなのか……と聴く前までは考えていたが、実際に聴いてみると、それによってマイナスされるものなど何もなかった。
ほとんどメロディのギター弾き語りに近い形だったのだが、それで十二分にこの曲の有する美しさが伝わってきた。
なんというか、まいった。
http://www.youtube.com/watch?v=ugrWJMqh0RI
次がブラジリアン・タッチの「イフ・ザ・スターズ・ワー・マイン」で、この流れは2ndアルバムの頭そのままだが、この2曲の続くさまは気持ちがいい。
こういう曲でのメロディの歌は、“柔らかでいて、深い”といった感じ。
そして、とても開かれている。
が、僕にとってこの日一番の鳥肌チューンは、ピアノを弾いて歌われた次の「ラヴ・ミー・ライク・ア・リヴァー・ダズ」だった。
抑制されたその歌の中から、まさにこの歌詞じゃないが、荒れ狂う海が見えてくる。
こんなに抑制されているのに、だ。
なんという官能的な含みを持った歌表現。
死ぬかと思いました。
以下、2ndから「マイ・オンリー・スリル」「ユア・ハート・イズ・アズ・ブラック・アズ・ナイト」、1stから「グッドナイト」と続き、本編のラストは「虹の彼方に」。
子供の頃に祖母から何度も「オズの魔法使い」を見せられ、そのコードが頭に焼き付いていた……といったような長い話も面白かった。
因みに僕は、アルバムでこの曲を聴いたときよりも、ナマでこうして聴いたことによって、このアレンジの仕方がいいものだと思えたりもしたな。
アンコールはひとりででてきて1stの日本盤ボートラ曲「プリテンド・アイ・ドント・イグジスト」。
ショーの終わりをイメージさせる曲だが、これで終わらず最後にもう一曲、「キャラバン」をカヴァー。
赤ワインの入ったグラスをまわしながら歌うその姿は、どう考えたってまだ24歳だとは思えないアダルトなもの。
歌い終わると観客に投げキッスをしつつ、杖をついてゆっくり歩きながらステージを去っていった。
結局、1時間半近くやったのではないか。
因みにこれ、正規のライヴではなく、メディアやディーラーさん関係と抽選で当たったラッキーな観客たちのみが観ることができるショーケース・ライヴなのだ。
やるからにはしっかりしたものを見せる。
そういう姿勢の人なんだろう。
いや、待った甲斐はあったというものだ。
総じて、とにかくその歌唱表現は筆舌に尽くしがたく、圧倒的なものだった。
テクニック的にも、例えば音がずれるような場面などまったくなかった。
その約1時間半の間、集中力が途切れたように思える場面など1秒たりともなく、一声一声が驚くほどの説得力を持ち、そこからその曲に込めた感情がビンビン伝わってきた。
繰り返すが、バンドも素晴らしく、彼女の歌表現に完全に寄り添っていた。
だが、それだけの集中力でパフォーマンスしていながらも、重苦しい雰囲気はなく、メロディ自身、とても楽しそうにしていた。
トランペットのソロのフレーズなどを聴きながら、ゲラゲラ声を出して笑ったりもする。
多分おかしいからではなく、それがいいフレーズだから、おっ、やるねーみたいな感じで笑ってしまっていたのだろう。
意外だったのだが、実はかなりの笑い上戸のようだった。
そして、とってもユーモラス。
MCでもけっこうちゃんと笑わせてくれる。
カリスマ性と言ってもいい独特のオーラがありながら、一方では思いのほかぶっちゃけキャラ。
いろんな経験をしてきて、気取ることなんてくだらないことだとわかっているのだろう。
歌唱の表現力が凄味を持つもので、普遍的でドラマチックないい曲を書けて、なおかつMCも面白いしステージ運びが上手く、開かれている。
よくないところがひとつもない。
しかも完成され過ぎた物足りなさのようものもない。
本格的に音楽を始めてまだ数年の人なのに、なんだろうか、これは。
一体いつからこういうふうに歌えるようになったのだろう。
事故の前からそうだったのか、それともやはり事故のあとに覚醒して獲得したものなのだろうか。
そんなことも僕は思いつつ聴いていた。
あ、あと、先にもちょっと書いたが、ギターの弾き方もかなり独特。
あの弾き方は考えあってのものだろうから、それについて訊ける機会があればなぁと思ったりもしたな。
とにかくここ数年のジャジー系女性シンガーたちとは格が違いすぎる。
数十年にひとり現れるかどうかっていうレベルの歌手だってことですよ、うん。
本当に鳥肌立ちっぱなしの約90分。
終わってから中で会った友達のAちゃんは、「(感動が)逃げていきそうだから言葉にしたくない」と言っていたが、同感だった。
いい映画を観終わってガツンとやられたあとは、しばらく席を立ちたくないし、一緒に観てた人に軽々しく「よかったねー」なんて言葉を言い合いたくもない。
ただひとりで、その余韻をかみしめていたい。
そういう感じだった。
こりゃどう考えたって今年のベスト1でしょう。
これを超える心の震えを味わえるライヴにあと8ヵ月の間に出会えるとは思えないものな。
終演後は、メディア及びディーラーさんと彼女との懇親会…という名の写真撮影会(もちろんフラッシュはなし)。
たくさん思いのたけを彼女に伝えたかったのだが、よかったです、と伝えるだけで精いっぱい。
でもとにかく握手できただけでも感激でした。
って、もうただのファンですわ、僕。
- マイ・オンリー・スリル/メロディ・ガルドー
- 大傑作と言っていいニュー・アルバム。
- 売れてるようだけど、まだまだこんなもんじゃない。
- もっともっと広く聴かれなくてはいけない盤。
来年のグラミー、これが獲らなきゃヘンでしょー。
i Tunesでライヴも配信されてます。
