更新が遅くて、今頃その話題?と思われそうだが……もう1週間前になる20日、KUMAMIくんのライヴを観たその日の夜中、バラク・オバマ米大統領就任式を生中継で見た。
みんなが書いてるようなことを改めてなぞってここで書いてもしょうがないので、僕なりに。
まずはアレサ・フランクリンの「My Country 'Tis of Thee」。
ああ、ここに選ばれるのはこの人なんだ、と。
で、考えてみると、確かにこの人しかいないか、と。
スティーヴィーではないんだな、アレサなんだな。
んじゃ、日本の場合だったら誰になるんだろ。
日本の国民的歌手、意味の持たせられる歌手って誰なんだ?
紅白のトリとかよく務めてる人を何人か思い浮かべてみるが、どの人もピンとこない。
というか、そもそも日本じゃ成立しないか。
文化がない、とまでは言わないが、こういう場所に映えて世界に見せつけられる現代的な文化は存在しないのか。
アレサの声はあまり出てなくて、弱々しかった(寒さのせいってところも絶対的に大きかったとは思うけど)。
去年のグラミーをナマで観たときも思ったが、歌手としてのピークが過ぎてることは歴然としてる。
それでもアレサがここに選ばれ、この瞬間ナマで歌っているという事実が伝えてくるものは大きいと思った。
パフォーマンスとしては、そのあとのヨーヨー・マやイツァーク・パールマンらの演奏のほうが質が高いなと思いながら僕は聴いていた。
スター・ウォーズのジョン・ウィリアムズがこの日のために作曲したという曲は、半ばからいかにもジョン・ウィリアムズ節で「面白いじゃん」と思えたし、ヨーヨー・マらは寒い中でニコやかに弦を弾いていて、よく弾けるなぁ、なんで手がかじかんだりしないのかなぁ、チェロやヴァイオリンといった繊細な楽器なのによく寒さで弦が切れたりしないなぁ、この状況下で震えずニコやかにこのレベルの演奏ができるというのはとんでもないことだよなぁ、すげぇ、すげぇぜと驚きつつ見ていた。
そうしたら実はあの演奏、2日前に録音されたものを流していたのだとあとでわかった。
あの寒さで弦が切れたりする可能性があり、正確な演奏が不可能になったからだそうだ。
そっか、やっぱりねぇ。とは思いつつも、でも流したのは録音だったけど、あの場で演奏してもいたのは確かだそうで、そういう意味で彼らがプロフェッショナルであることには変わりはない。
けど、その事実を知ったあととなっては、やはりアレサは立派だったなと思い返したかな。
そして、オバマ氏の演説。
NHKで見ていて、聴きながらまず僕とヨメが最初に思って同時に口に出た感想はというと。
「この人、信じられないくらいうまいねー」。
この人っていうのは、オバマじゃなくて(いや、オバマの演説がうまいのはもちろんだけど)、そのとき同時通訳をしていた女性のこと。
松浦世紀子さんという方ですね。
文字通りの「同時通訳」。
オバマ氏の口から発せられる言葉とほぼ同時なのだ。ズレを感じさせないのだ。
しかも、選ばれる言葉が的確(だと思えるもの)で、日本語としてわかりやすくて、発音もいい。
神業の域。
海外の音楽賞の生中継など見ていて何がストレスかってそこだったりするんだが、いやぁ、驚きました、松浦世紀子さんのそのスキルには。
でも、オバマの演説中、一回途中で別の方に代わって、また最後に松浦さんに戻りましたね。
あれはやっぱり集中力を持続させるのが難しいからなんでしょう。
大変なお仕事なんだなと改めて思いました。
しっかし、どんな世界でも「この人はすごい。プロ中のプロだ」と思える人がいるもんです。
そういえば22日の朝日の朝刊に載った「私の視点」というコーナーの記事も興味深かった。
鶴田知佳子さんという同時通訳者の記事で、この方はCNNの中継を同時通訳されていたのだそうで。
最初の8行から面白いので、無許可でなんなんだがここに転載すると…。
「オバマ大統領が誕生した瞬間、CNNの中継を同時通訳しているブースの中で、同僚と私は思わず快哉を叫んだ。これで久しぶりに大統領らしい英語の通訳ができる。もっと正直に言えば、通訳者の頭が悪そうに聞こえないで助かる……。」
なるほどなぁ。そういう悩みもあるんだなぁと思いました。
アホなお山の大将の話を訳すのは、そりゃやっぱり気持ちのいいものじゃなかったんだろうなぁと。
ところで、この鶴田さんがその記事の中で、
「彼の演説の一番の特徴は言葉の力そのものにある。選挙戦中の演説で、三つの疑問を示したあとに「答えは……」で始まる三つの文章を並べるなど、3回の繰り返しが特徴的だった。勝利宣言でも「新たにエネルギーを開発し、新たに雇用を作り出し、新たに学校を建てる」というように「新たに(ニュー)」を3回並べた。」
と書かれているが、僕がオバマの演説を聞いていて一番印象に残ったのもそこだった。
これがどういうことかと僕なりに考えるに、要はオバマ氏の演説って音楽的なんですよね。
内容の質だけじゃなくて、抑揚のつけ方とか繰り返しの巧みさとか、そういうものが音楽的で、聴いていて生理的に気持ちが高まるっていう。
例えばそうやって、ニューなんとか、ニューなんとか、ニューなんとかって数回同じ言葉を繰り返すやり方であるとか、決して激高したり叫んだりせずに抑制した話し方をするあたりは、ヒップホップ的と言えなくもないし。
有名なフレーズ…「チェンジ」とか「イエス・ウィ・キャン」とかをここぞというところで発して高揚させるやり方は、サビにとっておきのメロディと歌詞を持ってくるキャッチーなポップ・ミュージック的と言えなくもないし。
普通にちゃんと現代の音楽を楽しんで聴いてんだろなっていうのが伝わってくるっていう。
背景に文化が見えるわけですよ、どこぞの国の首相と違って。
しかも。
選挙戦では「イエス・ウィ・キャン」や「チェンジ」といったキャッチーなフレーズでつかむという、言わば人々が一度聴けば耳に残るようなキャッチーなポップ・ソングを「歌って」いたとしたら、今回はみんなが期待しているそういうフレーズをあえてほとんど入れずに(「イエス・ウィ・キャン」に至っては一度も使わずに)19分間の長めのシリアスな曲を説得力持って聴かせるという、その臨機応変さもさすが。
こういう場だったら踊れるキャッチーな曲を歌うとか、こういう場だったら胸をうつバラードを歌うとか、そのへんの読みが的確だし、どっちも抜群の歌唱力でうたえると。
歌手に譬えるなら、そういう人なんでしょうね、オバマって。
ミック・ジャガーでも誰でもいいけど、優れた歌手はそうやってライヴハウスではライヴハウスなりの、スタジアムはスタジアムなりの、テレビ番組はテレビ番組なりのパフォーマンスがやれて、ノリのいいヒット曲と長くてシリアスめの曲を場や観客の状態を見ながらうまく歌い分け(選び分け)、そうやって何万人もの人の心を捉えるわけで。
そういうのと同じ感覚を受けるんですよね、オバマの演説って。
だから、ああ、こういうときに国家の指導者がうたう歌(=話す言葉)とはこういうものなんだと。
そんなふうに思いながら、僕はその中継を見てました。
ま、そりゃあ羨ましさはありますよ、そうやって音楽がわかってそうな人が指導者になってるっていうのは、まったくそうじゃなさそうな(その上、漢字も読めない)人が指導者になってる国のものからすればねぇ……。
- イエス・ウィー・キャン:ヴォイセズ・オブ・ア・グラスルーツ・ムーヴメント/オムニバス
- こういうときなだけに、これ、最近けっこうよく聴いちゃいます。
- そういえば、式典でシェリルがパフォーマンスするっていうから、ここにも入ってる「アウト・オブ・アワ・ヘッズ」を歌ってくれるかなぁと期待してたんだがなぁ……。