書きはぐっていた1ヵ月前の日記です。
11月30日(日)
中野サンプラザホールで、中孝介。
いろんな部分でこれまでのライヴのあり方・見せ方からだいぶ変えていた。
新しい形での中孝介の提示の仕方をおもいきってやっていて、それを中くんも楽しんでいる、そう思えたライヴだった。
まずバンドの編成は、ピアノ、ギター、ベース、ドラム、パーカッション。
中野サンプラザという音のいい会場だったこともあったが、今までの彼のライヴで一番音のバランスがよかった。
07年の九段会館は曲によって歌のよさが際立たなくなる粗い音だった。
今年3月の恵比寿ガーデンホールはアコースティック編成だったので、音の響きはよかったが、ノリのいい曲においては物足りなさも残った。
今回はアコースティックで聴かせるところは聴かせ、エレキが入ったバンド・サウンドになるところはなりというふうに、曲によってミュージシャンたちが柔軟に演奏に加わったり外れたりしていて、それによりアコースティックのバラードとノリのいいバンド曲の両方の持ち味がしっかり出ていた。
MCのスタイルにも変化があった。
今までは努力して標準語でMCをしていたものの、そうなると言いたいことがうまく言えないということで、奄美の言葉で気取りなく喋ることにしたのだそうだ。
なるほどいつもよりリラックスしていろんなことを話せていたようだったし、けっこう冗談なんかも言って観客を笑わせたりもしていた。
そうした本人のリラックス感はいいほうに歌にも反映されるので、これは正解だっただろう。
そして何より大きな変化があったところはといえば、後半の「ラララ」や「Goin'on」といった比較的ノリのいい曲での歌い方だ。
これまでのライヴから同じ場所に立ってじっくり歌う男という印象を持っている人が多いだろうと思うのだが、この日の彼はこのあたりの曲でリズムにのってステージを実によく動いていた。
跳ねてもいた。
また、「ラララ」の合唱部分では「1階席っ!」「2階席っ!」とか、「男子だけ!」「女子だけ!」とか、「10代の人!」「20代の人!」といったふうなフリをして、観客を煽ったりいじったり。
まるでサザンのライヴにおける桑田さんの客煽りを手本にしたような……と書くと少しだけ大袈裟のようだが、でもきっと彼はそういうふうに観客と一体になるようなライヴを求めたに違いない。
そうすることによってキャラの映り方がぶっちゃけた感じにもなるし、より多くの人が親しみの持てる歌手として彼のことを見れるようにもなる。
言わばいい意味での大衆化ということで、この見せ方はいいんじゃないか、効果があるんじゃないかと僕は思った。
ある場面でこのようにぶっちゃけた見え方をしても、バラードはバラードでちゃんとじっくり歌えば、そこでの説得力はむしろ増す。
だからそれによって失われるものなどは何もない。
この日歌われた曲の中で特に印象に残ったのは、まず中島みゆきのカヴァー「糸」。
これは中くんに実に向いている。
それから続けて歌われた「moontail」と、奥田民生のカヴァー「手紙」。
「moontail」はピアノ一台のところにエレキギターが入ったあたりでもうグワッと気持ちを持っていかれた。
テンポは今までよりさらにスローになり、壮大に。
中くんの歌と動きには凄味があった。
で、ドラムとパーカッションの激しいリズムから「手紙」へ。
この間奏部分の中くんの雄叫びも魂からの声といったもので、とにかくこのあたりの曲においてもっとも音楽的なカタルシスが感じられた。
アンコールでは自然に「孝介!」コールが起こり、ああ、彼は男からも女からもいろんな年代の人からも愛されているのだなと実感。
総じて「成長」と「進化」をしっかり見せたツアー・ファイナルだった。
