12月26日(金)
九段下・日本武道館で、アンジェラ・アキ。
今年で3回目となった12月の武道館~ピアノ弾き語り公演。
これまでにも増して喋りの部分が多く、さらに今までよりもずいぶん早口になって、よどみなく喋る彼女。
前半などはピアノ漫談の態とも言え。
時間を計ったわけじゃないが、印象として、コンサートの半分くらいは喋っていたんじゃないかという感じだ。
喋りと音楽を楽しむコンサート。
そういうものもあっていいとは思っている。
さだまさしも山下達郎もコブクロも相当喋りの多いライヴをやるらしいし、それを楽しみに観に行くという人も少なくないらしい。
でも……もう率直に書いてしまうけど、いくら弾き語りライヴだからとはいえ、やはりこれは喋りの時間が長すぎるんじゃないか。
その分、もっと曲を歌ってほしい……という人だって、たくさんいるんじゃないか。
とりわけ僕が違和感を覚えたのが曲の説明だ。
どういう思いでその曲を書いたか、その曲でどんな思いを伝えたかったか。
それをアンジェラは丁寧に話して伝えようとするのだが、僕はそれ、必要のあるものだとは思わない。
いや、初めて披露する新曲について、どうしてもそれを言葉にしてまずは話しておきたい……という気持ちがあるのはわかる。
例えばこの日初披露した「レクイエム」という組曲についての話は、まあ、あっていいものだと思った。
(とはいえ、あれにしたって、説明なしでいきなり聴いたほうがインパクトは大きかっただろうし、歌詞のメッセージもストレートに届いただろう)
が、既に発表されたこれまでの曲群について改めてここまで言葉を加えるのはどうだろうか。
曲というのは、喋りじゃ伝えきれない思い、言葉では表現できない思い、感情といったものが凝縮されたものとしてあるべきもの。
誤解を恐れず書くなら、言葉にできないから音楽家は音楽を作るのだと思うし、そこに説明は必要ない。
そして、曲はまず作家のものだけど、そこから広がっていくことで聴く人々のものになる。
同じような意味のことをアンジェラもこの日「手紙」を歌う場面で話していたからそのことをよくわかっている……はずなのだ。
聴く人はそれぞれの気持ちで、それぞれの解釈で、自由に曲を聴いて楽しんだり共感したり感動したりする。
いい音楽というのは、そのキャパシティの大きさに結びついている。
聴き手が自由にイメージを広げ、想像しがいのあるものほど、いい曲と言えるものだと僕は思う。
アンジェラはそういう優れた曲をたくさん書いてきたソングライターだ。
こちら側が想像する余地のない断定的な愛だ希望だを書いて歌う安っぽいなんちゃってシンガー・ソングライターとは決定的に次元の違うところにいる大人のアーティストであって、僕はそこに惚れ込んでいる。
なのに「この曲はこういう思いでこういう気持ちになって書いたもので…」と全部説明してしまっては、せっかく広がりを有した曲たちなのに、その広がりが限定されてしまう。
嫌な言い方をしてしまうと、この曲はこういうふうに受け取りなさいと言われているような気にもなってしまうのだ。
それはとてももったいないことだと僕は思う。
アンジェラは優しい。
とても思いやりのある女性で、僕は彼女のことが大好きだし、アーティストとしても人としても僕にとって特別なひとりだ。
で、きっと彼女のその優しさや思いやりが、ライヴにおいてはああいうコミュニケーションの形として出るのだろうとも思う。
それはよくわかる。
ライヴに来てくれたひとりひとりとなんとか繋がりたいと思って、それを本気でしようとする、そのために出来ることを考えて実践する。
それがアンジェラという人だ。
が、今回観ていて、僕にはその思いの表わし方が、ライヴのあり方としてよいものだとは思えなかった。
お客さんにあそこまで言葉で説明する必要はない。
若いJ-ポップ好きの人たちだって、言葉による説明がないと曲のよさがわからない……なんてことはない。
みんなアンジェラの曲を好きになって、それで会場に足を運んでいるのだから、ただ演奏と歌に思いを込めて歌ってくれればそれが一番いい。そう思う。
そんなわけで、この日印象に残ったのは中盤、映像を前にあまり喋らずに続けて歌われた数曲。
(あの映像はとても効果的だった)
喋りがないことで、純粋に曲の世界観に入り込め、そのよさをじっくり味わえたからだ。
アンジェラの歌唱にしても、喋りを挿まずに続けて歌われたもののほうが間違いなく表現に凄味があったと思う。
集中力とはそういうものだ。
あと、アンコールのカヴァーだが、今回はJ-ポップの懐メロではなく、サラ・マクラクランのヒット曲「エンジェル」が歌われたのだが、これはとてもよかった。
前にサラの曲とか洋楽で好きだった曲もうたってほしいと僕は彼女に言ったことがあったんだが、イメージしていた以上に素晴らしかった。
で、こういうのを聴いた瞬間に、やはりアンジェラは世界に羽ばたいてほしいアーティストだと思わずにいられなくなったりもするわけだが。
なんかそっちの側面と今回のように喋り倒すライヴのあり方のギャップを、僕はやっぱり自分の中でうまく落ち着かせることができないでいる。
いつか喋りなしの、歌を聴かせるだけのアンジェラのライヴというものを見てみたい。
それ、本気で僕は思ってます。
この日発表された、09年2月にリリースされる3rdアルバム。
これについてはまた改めて機会のあるときに書きますね。
