GESHI FES 2008の記事を書いたとき、元ちとせさんへの取材に触れ、それについては明日か明後日にでも書きます……と書いたものの、そのままになってしまっていた。
すみませんです。
だいぶ経っちゃいましたが、書いておきますです。
6月17日(火)と6月22日(日)
乃木坂のソニーで、元ちとせさんにインタビュー。
この週は2回続けて彼女に会った。
17日はオリコンのウェブ用の取材で、22日はワッツイン用の取材。
1回の取材の書き分けじゃなく、オリジナルをということでそうなったのだった。
が、今回はまた今までにも増して熱の入った新作の話ということもあり、とても1時間じゃ訊き足りなかったので、2回できてよかった。
特に17日のインタビューでは、40分以上も上田現さんのいろんな話を聞くことができたのだった。
明日(16日)発売になる、約2年2ヵ月ぶりの新作『カッシーニ』。
この表題曲「カッシーニ(土星に環がある理由)」を作詞作曲し、プロデュースしたのが上田現さんだ。
ちとせさんの代表曲である「ワダツミの木」に始まり、前作でも「羊のドリー」「恐竜の描き方」といった、ほかの誰にも書けないであろう曲を提供していた。
今まで僕は何度もちとせさんの取材をしてきたが(前にも書いたかもしれないが、2年くらいワッツインさんで彼女の連載を担当していたことがあり、その頃は毎月会っていたので、それを含めると僕はたぶん40~50回くらい彼女に取材している)、その中で上田さんの話は何度となく聞き、お会いしたことは一度もなかったのだが、自分の中でどんどんイメージが膨らんでいた。
いつかお会いして話を聞きたいと思ってもいた。
が、今年3月9日に上田さんは他界された。
上田さんがちとせさんのために残した曲は、まだほかにもいくつかあるそうで、いずれ何らかの形で発表されるはずだが、実際にふたりが膝を突き合わせて完成させた曲は今作の「カッシーニ(土星に環がある理由)」が最後となった。
つまりこれが上田さんにとってのラスト・プロデュース曲になったわけだ。
歌詞がたまらなくいい。
素晴らしい。
幸せな曲なのに、泣けてしまう。
この曲、上田さんは自らの余命を知った上で奥さんにあてて書いたものなのかと最初は勝手に思ってしまったのだが、話を聞けばちとせさんが結婚されてちょっとしてから久し振りに会ったときの彼女の印象から書いたものなのだそうだ。
ちとせさんがあまりに幸せそうだった、その印象から、上田さんはこの曲を書いた。
「重なる手と手の間に広がる銀河の深さに ねえ 吸い込まれそうだよ」
「好きで大好きでもうどうしようもなくて 気がついたらあなたの周りをぐるぐる回っている」
(「カッシーニ(土星に環がある理由)」より)
この曲の話に始まり、上田さんの話を彼女はたくさんした。
涙腺が弱くてダメな僕は、聞きながら何度か目が潤んでしまった……ことが彼女にわかってしまったかどうかはわからないが、彼女はそういうことはなくしっかりと話をした。
「現ちゃんは、上からも下からも人やものを見ていない……ホントに人間そのものとして人やものごとを捉えていて。人間そのものの目線でものを書いてたんだなーって思いますね」
「アーティスティック? 思ったことないです(笑) 寿司の好きなおっちゃんでしたね。お酒は弱いのに一生懸命飲もうとしてた。飲まなくていいのに」
人間力の人。
ちとせさんから話を聞けば聞くほど、そして上田さんがちとせさんに書いたいろんな曲に触れれば触れるほど、そのことがわかる。
「まあ、ああいう性格なんで、自分で納得して旅立ったと思うんですけど、でもね、ときどき今でもいたずらしにやってくるんですよ、現ちゃん」
聞けば、上田さん作以外の曲をちとせさんが歌おうとして、その歌詞を書いた紙を見ようとしたとき、スッと風が吹いてその紙が飛んでってしまったりしたことが何度かあったそうだ。
「いたずら好きだから。スタジオで、ミュージシャンがほかの人の曲を演奏しようとしてるときにも、よく同じようなことが起きてますね」
「“現”っていう名前は、お父さんがつけたんですって。どこにでも現れるようにって意味で。だからたぶんまた現れますよ(笑)」
まさしく土星の環のように、まわっているのかもしれない、ちとせさんのまわりを。
こんな話も。
「現ちゃん、自分の歩いた一生を地図にして残してたんですよ、一枚の旗みたいな布に。で、その最終地点が“ワダツミ駅”になってた。奄美の場所で、木が立ってて。すごくステキな地図でしたね」
グッとくる話。
そんな上田さんとちとせさんの入魂の表題曲で始まるアルバム『カッシーニ』は、彼女にとってのひとつの到達点でもあるように思う。
ほかにも聴くほどにその歌の意味が大きく広がっていく曲ばかり。
僕は常田真太郎さんが魂込めて書かれたシングル曲「蛍星」の、「手を広げたら欲張るだけでいらないものまでも掴む 両手ですくうそれくらいでいい…」という歌詞がたまらなく好きです。
いつもの元ちとせファミリーに加え、坂本龍一、管野よう子、アナム&マキ、チーフタンズらも参加した4thアルバム。
