2月28日(木)
六本木・コロムビアミュージック社で、キリンジのインタビュー。
泰行さんにはソロ・プロジェクト“馬の骨”のときに一度インタビューしたことがあったが、高樹さんにお会いするのは今回が初めて。
つまり、キリンジにインタビューするのは、デビュー10年目にして今回が初めてであった。
なんか自分でも意外なんだけど。
10th Anniversaryということで、1月にライヴDVDリリース、2月に新曲+10曲のライヴ・テイク(!)が入ったシングルのリリース、そして3月19日にニュー・アルバムをリリースと、このところ活発な動きを見せているキリンジ。
今回の取材は、『7-seven-』と題された7枚目のアルバム用のもの。
夕方の取材の準備として、昼にその新作の音を聴きながら質問を考えてまとめる作業を行なう。
だが、その作業をしながら、僕は思う。
キリンジのインタビューって、なんか難しいかも。
いや、インタビュー自体が難しいわけではない。
(実際、普通に楽しく話すことができ、興味深い話をたくさん聞くことができた)
そうではなく、質問を考えることが難しいのだ。
なんでだろうと思って考えてみたのだが、たぶんこういうことなんだろう。
今更僕なんぞが改めて言うまでもなく、キリンジの楽曲の完成度は一貫して極めて高い。
よって、その楽曲に付け加える言葉などないというか、それについて説明する言葉を彼らの楽曲は必要としていないのだ。
これこれこういうことがあったから今の僕たちはこの曲でこういうメッセージを伝えたかったんですよー、みたいな音楽ではないし、そういうことを伝えたいために音楽をやってるような人たちではない。
当然、そういうことを訊かれたがってもいない。
曲は曲として完成し、それが全てを語っているわけであり、つまり作品至上主義なわけであって、それをどう感じるかは聴き手次第だ。
だから、最近はどうですかみたいなことを訊くのもなんか違う気がするし……っていうのが理由のひとつ。
それと、そもそも作品ごとにスタイルを変える人たちでもないので、そうすると自ずと音の録り方みたいな話に終始しがちになってしまいそうで、まあそういう話も僕は好きなのだが、一般誌でのインタビューでそれもどうなのかな……とか考えてしまって、じゃあどっから訊こう…と思ってしまったのもひとつ。
で、今回の新作は、昨年からやってたシングル7ヶ月連続配信からまとまっていったものであり、当然そのあたりの経緯と思いをまずは訊くのが筋なのだが。
これがねー、そのアルバムのプレスリリースに彼らの言葉が短く載ってるんだけど、その短文がまた余りにも的確なもので、もうそれが今回の新作の全てを語っているから、これ以上訊くことはないんじゃないかと。
まあそんなことも含めて、彼らへの質問を考えるのって難しいかも、なんて思ってしまったのだった。
っていうことを、インタビューの最初に言ったら、おふたり、苦笑されてましたが。
って、そりゃそうか。
因みにその短文を要約すると、配信は盤を作るより気が軽いと思ってそのシリーズを始めたものの、やってみたら結局、1曲は1曲であって、やっぱりいつもと同じように丁寧に作ることになったと。
じゃないと、単なるデータとして扱われることになり、自分たちの音楽の価値を下げることなってしまうという思いに至ったと。
で、それを受けてのアルバムである、と。
そういうようなこと。
このことが今作の肝でもあって、だからやっぱり結局はこのあたりの話を膨らませつつも、さらに奥に突っ込むというような形のインタビューになったのだが。
これがけっこう面白い話の膨らみ方をして、今の邦楽業界の慣習とか意識とか、それに対する作り手側の意識とか、そういうことがいろいろ聞けたり話し合えたりしたのは面白かったですね。
例えば、最近はどんどんスピーディーにアルバムをリリースするということ自体に重点をおき、年に2枚とか多ければ3枚とか出すアーティストもいるが、そういうのってどうなんだろう…ってこととか。
(これは僕が問題を提起したことで、それに対して高樹さんは早く作ることよりもいいものを丁寧に作る方が大事だと思うとおっしゃってました)
着メロだなんだのダウンロード数を(レコード会社側が)求める時代になり、それに準じて最近の若いアーティストなどは意図的にサビを曲の始まりに持ってくる作りをするようになった、レコード会社側もそういう作りを要求するらしい…ってこととか。
(これも僕や編集者の提起した問題で、それに対して、そうらしいってことは知ってるけど自分たちはそれはやらないとおっしゃってました)
そもそも、“着うたフル”って言葉があるけど、その言い方自体がどうかと。つまりフルで聴くことのほうが特別で、フルじゃなくてもいいと思っている人がたくさんいる、フルで聴く必要のない音楽が溢れているって、それってどうなのか…ってこととか。
(これは泰行さんが言ってたことで、僕も深く同意)
そういったことをいろいろ話せたのが面白かったです。
あと、さっきのプレスリリースの短文の話に戻るけど、ここにこんな彼ららしい一言があったのも、僕は気にいっている。
ちょっと紹介しておくと…。
「全12曲、いつにも増してポップな内容のアルバムになったと思います。深刻ぶった曲はありません。“さくら”というタイトルの曲もありません」
クククって感じでしょ?
だってホント、ここ数年、この時期になると、あてこんでうじゃうじゃ出されるあの“さくら・ソング”ってな定義のあれ、僕もうざくてしゃあないと思ってたんでね。
はい。
キリンジのニュー・アルバム、そんなふうに何かを要求されて作ったり、何かに迎合して作ったりは、もちろんまったくしていない、そういう彼ららしい、彼ら流の素晴らしいポップ・アルバムであります。
こちらは2月にリリースされた新曲で、なんと10曲のライヴ・テイクも入った「お得な」メガ・シングルです。
公式サイトはこちら。
http://columbia.jp/artist-info/kirinji/
http://www.naturalize.jp/kirinji/index.html

