書いてない取材日記、ライヴ日記がうんと溜まってるんだが。
とりあえず、わっと飛ばして、今日の日記から。



9月21日(金)


溜池のEMI社で、ステイシー・ケントの取材。


ステイシー・ケントは、1997年にデビューしたジャズ系の女性ヴォーカリスト。
今までのアルバムは、キングさんから数枚、日本盤で出たものもあったが、ほとんどは外盤の扱いのみ。
ではあったのだけど、日本にも熱心なファンはいて。
事実、どれも高質な、いいアルバムだった。


そんな彼女が今年、仏ブルーノートに移籍。
その移籍第1弾アルバム『Breakfast on the morning tram (邦題:市街電車で朝食を)』がEMIから今月発売になったばかり。
で、昨日(20日)、そのアルバムを携えて来日し、「東京JAZZ 2007」というイベントに出演した。
残念ながら、僕はその時間に代官山で鬼束ちひろの取材をしていたので、行けなかったのだが。


それはそれとして、新作『市街電車で朝食を』は、ライナーを書いたから贔屓して書くわけじゃないけど、聴けば聴くほどいいアルバムで。
大好きなんです。


一新されたバンドの演奏は、オーガニックで。
それに乗せて歌う彼女の声は、とてもナチュラルで、チャーミングで、穏やかで。
ライナーにも書いたけど、その聴き心地のよさは、たとえば明日か明後日に何かステキなことが起こるんじゃないかと予感させるようなもの。
歌い方はへんにフェイクに逃げたり、ドラマチックでしょーとばかりに大袈裟に歌ったりする種類のものではなく。とても素直。いい感じの力の抜け方が魅力的なんですね。


まあ、ジャズ・ヴォーカルと言えども、そんなにジャズジャズしてなくて。
ノラ・ジョーンズの成功以降、ジャズに限らず成熟したポップ・ミュージックを送り出すようになったブルーノートからのアルバムっていうだけあって、僕としては大人のポップ・ミュージックを好む人たちに広く届けばいいなぁと願っているもの。


選曲も、スタンダードだけじゃなく、たとえばスティーヴィー・ニックスの「ランドスライド」を歌っていたり(この曲のピアノと歌のタッチは、ノラ・ジョーンズっぽくていいんです)。
セルジュ・ゲーンズブールの曲などをフランス語でも歌っていたり。
なかなかに広範。
休日の午後などに、ゆっくり味わっていだきたい。


さて、初めて会ったステイシーさんはというと、これが本当にステキでいい人&大人の女性としての可愛らしさもでている人でした。
途中から、旦那さまであり、彼女の作品のプロデューサーでもあり、サックス&フルート吹きでもあるジム・トムリンソンさんも取材に加わってくれたのだけど、ジムさんもまたいい人でね。
ステイシーさんが僕の質問に答えてて、ちょっと一息つくと、「僕も話していいかなぁ」なんて遠慮がちに言って、それに対してステイシーさんは彼の腕に手を置いて、「ええ、あなたも答えて」なんて促して、その感じがまたとても自然で、ああなんてステキな夫婦なんだろうって思って、僕まで幸せオーラに包まれちゃった。
今回の新作のブックレットの中面や、ジム・トムリントン名義のアルバム『リリック』のジャケット写真でも、幸せそうに寄り添ってる二人の写真が載ってたけど、本当にあのまんまの感じ。


で、その揺るぎようのない信頼関係、その強さと温かさが、二人の音楽にも反映されていて、だからこんなに聴いていて人生を肯定的に捉える気持ちになれるんだなぁと僕は思いましたね。


ところで、僕は新作のライナーの締めに、こんな一文を書いた。


ボッサもあるが、ブルーズもある。心弾む曲もあるが、悲しい曲もある。ただ彼女の歌を聴いていて、悲観的な気持ちになることは、まずない。喜びだけでなく、人生には悲しみもついてまわるけど、でもその両方があってこその人生なのだから、気にする必要なんてないでしょ? そういう肯定的なトーンが彼女のヴォーカルの主成分としてあるようなのだ。


今日、話を訊いていたら、まさに僕がそう感じたことと同じこと……つまり悲しさもこのアルバムにはあるけど、でも、人生にはそれを踏まえた上での喜びもあり、両方あってこその人生……みたいなことを答えていて、ああ、僕はこのアルバムで彼女が伝えたかったことをちゃんとキャッチすることができたんだと思ったらちょっと嬉しくもなったのだった。


なんか、いいインタビューができた気がしたし、二人もそう言ってくれて、いつもより軽快な歩調で帰ってきた日でありました。






こちらが、でたばかりの新作。

おすすめです!


市街電車で朝食を/ステイシー・ケント





こちらはステイシーさんも歌でフィーチャーされてるジム・トムリンソンのアルバム。

このジャケット写真そのままのお二人でした。

リリック/ジム・トムリンソン



日系英国人作家のカズオ・イシグロさんが歌詞を書き、ジム・トムリンソンさんが曲を書いた「トラベリング・アゲイン」は、ボサノヴァ調で、僕のお気に入り。「この歌詞がいいんですよねぇ」と二人に伝えたら、ジムさんが楽譜をくれた。サインもしてくれた!