書いてなかったライヴの感想など、遡って書き中です。
「今頃かい!」と呆れずに、おつきあいくだされ。
6月20日(水)
日本武道館で、クリスティーナ・アギレラ。
結論から書くと、これは今年の上半期に観たライヴの中でもベストと言えるもの。
「ここまできたかぁ」という思いで胸が熱くなった。
振り返れば過去2回のクリスティーナの日本公演も非常に満足度の高いステージで、ほかとは比較にならない彼女のプロ意識やステージにかける意気込みの強さにやられ、僕は熱くなったものだった。
チア・ガール風のカッコなどして溌剌と踊っていた初来日公演は、ポップ・アイドルとしてどこまで華やいだステージができるのか、エンターテインメントの可能性に挑んでいた感があった。
セクシーなんていうレベルを軽く超え、SMチックな見せ方も含めてエロ濃度の高かった2度目の来日公演も、初来日と方向性こそ変われども、やはりステージにかける意識の高さに圧倒された。
終始「踊る」。終始「見せる」。そして終始「パワフルに歌う」。
抜く場面を作らない。
徹底して、全力でやりきる。
それがクリスティーナ・アギレラという人であることは、デビュー時から一貫している。
最初っから彼女はほかの有象無象のポップ・アイドルとは意識の(もちろん歌唱力のでもある)レベルの異なる特別な存在だったのだ。
だから、非常に評判が高い今回のライヴではあるが、しかし突然覚醒したとか突然よくなったということではない。
終始、踊って、見せて、パワフルに歌い、「抜き」を作らずやりきるのは、彼女の性分だからだ。
(だから『バック・トゥ・ベーシックス』のコンセプトもCD1枚では収められずにあのヴォリュームになってしまうわけで、これじゃ力作すぎて気軽に聴けないよ……と思うこともあるっちゃあるが、しょうがないのだ、それがあの人なんだから)
ということをわかった上でも、しかし今回のショーの猛烈なテンションには、言葉にならないほど圧倒された。
この人はステージで死んでもいいと思っている、きっと。
そういう力の尽くし方であり、一言でいうならまさに「ファイター」。
アンコールで名バラード「ビューティフル」を歌い、その大団円的な締めで止めてもみんな感動しながら会場をあとにできるというのに、そこで終わらず最後の最後に追い打ちかけるように「ファイター」を歌っちゃうあたりがクリスティーナの性分なのだろう。
彼女にとっては、これは戦いなのだ。終わって自分に余力が残ることを許したくないのだ。
ギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッション、ホーン×3、コーラス×4、そしてダンサー×8。
クリスティーナ含め、多いときで21人もがステージにいるという大所帯。
しかし、例えばこの前のマドンナのライヴのようにステージと関係ないところでダンサーが舞っているようなことはなく、どのメンバーもダンサーも必然性を伴ってそこにいる。
クリスティーナは衣装チェンジも10回近く行なっていたが、その間に演奏を長引かせるなどして時間かせぎするなんてことはまったくなく、計算され尽したタイミングでさっと引っ込み、さっと着替えてすぐに登場する。
緻密な計算のもとに練られた、まったくもって完璧なショーで、一体何回ゲネプロを行なったのだろう……などと考えただけでもタメ息がでる。
ある意味、今までの集大成的なライヴとも言え、だからいろんなところで「ここまできたかぁ」という思いが到来したのだ。
「エンター・ザ・サーカス」から「ウェルカム」の流れは、CDを聴いたときからステージにもサーカスが再現されて立体的な劇場が現出するのだろうと僕は読んでいたのだが、実際にそれを目にすると……う~ん、やっぱりすごい!(因みにこの2曲の流れは、ステージのこの演出をイメージしながら彼女は作ったに違いない)
それにしても、何よりやはりその圧倒的な歌唱力、圧倒的な歌いっぷりに、今回は今まで以上にやられてしまった。
MCもほとんど挿まず、次々に曲を繰り出し、あれだけパワフルに踊って動いて、それで息ひとつ切らさない。
そのタフさ。
ここまで鍛え、ここまでやりきらないと、彼女は充実感を味わえないのだろう。
その、何かに憑かれているんじゃないかというほどのストイックさは、たとえばミック・ジャガーやプリンスとも比肩するほどのもの。
まあ、イマドキの若い女性歌手で比較になる人はいないでしょう。
厳しく見れば、東郷かおる子さんが朝日新聞の評で書かれていたように、“熱唱の連続がステージに緩急をつけるのを邪魔する”と感じられるところもあるにはあった。
が、僕はどうしたって力を抜くことができないこの人のファイターとしての性分に、「ショーを観る」という次元を超えたところで胸を打たれてしまう。
歌唱と共に、そのあり方そのものに、どこまでもエモーショナルな人だよなぁと感動してしまうのだ。
曲は21曲中15曲までが『バック・トゥ・ベーシックス』から。
もっともファンを多くつかんだはずの『ストリップト』からは、アンコールで「ビューティフル」と「ファイター」を歌ったものの、本編ではアレンジを大きく変えた「ダーティ」のみ。
で、意外にデビュー作から2曲を本編に混ぜていて、そこにも彼女のいろんな思いが見えて、僕は嬉しかった。
会場を埋め尽くし、彼女に熱い声援をおくっていたのは女性ばかりだったが(9対1くらいの割合か)、男性客が少ないのはどういうことだろう…。
それはちょっともったいないな、もっと男に見てほしいものだなと僕は思った。
とにもかくにも、わしゃ決めました。
この人には一生ついていきます、と。
下は、大力作『バック・トゥ・ベーシックス』。
僕のライナーも、負けちゃならんと、かなり力、入ってます。
それにしても、これだけのものを作っちゃったら、次に彼女はどこへ向かうのだろう……。
さらっと昔のソウルやジャズのカヴァー集なんてのを作るのも、それはそれで“バック・トゥ・ベーシックス”だからいいんじゃないかな…と思ったりもするのだけど。