今日はスザンヌ・ヴェガの新作『ビューティ&クライム』の日本盤の発売日だ。
ブルーノートに移籍しての第一弾。
これが本当に素晴らしい内容で、繰り返し聴くほどに好きになっていく。


テーマは彼女が長年住み続けている街…ニューヨークで、タイトルの“ビューティ&クライム”という言葉は「ニューヨーク・イズ・ア・ウーマン」という曲の歌詞からとったもの。
スザンヌはここで「彼女の美しさ(ビューティ)と罪深さ(クライム)に目が眩む」と歌っている。
彼女というのは、ニューヨークのことだ。
この一節に象徴されるように、愛憎とまでは言わないまでも、スザンヌはニューヨークに対するアンビバレントな感情をいろんな書き方で表現していて、そのへんを読み解くのも面白い。
いわばニューヨークをテーマにした短編集といった作り。


ニューヨークを歌う歌手というと、彼女も敬愛するルー・リードを筆頭に、アル・クーパーとかランディ・ニューマンとかポール・サイモンとかジョー・ジャクソンとかリチャード・ジュリアンとかいろんな人が思い浮かぶが、彼女の視点はやはりその街に長く住んでいる女性ならではのものだ(とはいえ「ニューヨーク・イズ・ア・ウーマン」は男性の視点で書かれているのが面白いのだが)。
特に“9・11以後の”ニューヨークが芯の部分のテーマ(というかメッセージというか)としてあり、例えば「エンジェルのドアの前」という曲などを聴くと、やはり優れたソングライターであるなと改めて思う。
わりとポップな曲調だが、エンジェルというのはスザンヌの従姉妹の夫=エンジェル・ルイスのことで、彼は警察官として9・11直後のグラウンド・ゼロに配備され、毎日、死体の処理に追われた。
「彼の頭の中は 以前のようには戻れない ただの幻想だと思い込もうとしても」、そんな一節が刺さる。


そういえば彼女の大ヒット曲「ルカ」も、ポップな曲調だが幼児虐待をテーマにした歌だった。
暗い曲調で暗い歌をうたうのは容易いが、ポップで親しみやすいメロディにのせてシビアな現実や問題を歌い、聴き手にその問題への関心を向けさせるというのは、それなりのスキルが必要で、日本で今活躍しているアーティストでそれができる人はほとんどいない。まあ、アンジェラ・アキぐらいのものか。


長くなるからこのくらいにするが、このアルバムがいかにして作られ、いかなる思いが込められているか、スザンヌの言葉を紹介しながら僕は日本盤のライナーノーツに約1万1千字も書いたので、これは日本盤で買って読んでいただきたい。
「長すぎる」と言う人もいるだろうことを承知で、でもスザンヌを聴くような人なら歌詞にも重点を置いてるだろうから、この量でも読んでいただけるだろうと思って、存分に書いちゃいました。
けっこう自信作。


ビューティ&クライム/スザンヌ・ヴェガ

ところで、スザンヌ・ヴェガというと、僕は「紅茶の似合う人」というようなイメージがある。
なぜかというと、今から10数年前、僕がまだany(エニー)という情報誌の編集者だった頃に東京のホテルで彼女の取材をしたのだが、そのとき、ティーカップを両手で包むように持ってゆっくり紅茶(確かミルクティーだったか)を飲んでいた彼女の姿が目に焼き付いているから。
それを、同行したカメラマンで、最近このブログによくコメントをくれる加藤忠さんが撮っていて、その写真が僕はとても好きだ。
忠さん、覚えてる?





こちら、グラツィア誌掲載のコメント入りCD紹介文です。

http://www.joseishi.net/grazia/culture/cd/cd.html



こちらは、EMIのウェブサイト。

『ビューティ&クライム』にまつわるスポットが紹介されたマンハッタン・マップが、いい感じです。これを見ながら新作を聴いていただければ、と。
http://www.emimusic.jp/st/artists/vega/