12月4日(月)
渋谷・NHKホールで、ステイシー・オリコ。
2004年2月に国際フォーラム・ホールAにて行なわれた(正規の形の)初日本公演は、素晴らしかった。
それまで向こうでもほとんど単独公演を行なっていなかったステイシーが、いきなりの大ホールであるにも関わらず、驚くほど堂々たるステージを見せたのだ。
ダンサーを従え踊って魅せたかと思えば、ジャズ・タッチやピアノ弾き語りなどでじっくり歌を聞かせるところは聞かせ、僕はそのエンターテインメントなあり方に感動すらしてしまっていた。
この年代の女性歌手で、もっともしっかりしたステージを見せてくれるのはステイシーなんじゃないかと、そのくらいに思ったのだ。
しかし、その後、彼女は、音楽活動を休止。
その経緯については新作のライナーなどに詳しく書いたが、ともあれ活動休止期間を経て、今年の夏に新作『ビューティフル・アウェイクニング』で復帰した。
今回の“ビューティフル・アウェイクニング・ツアー”は、つまり復帰ライヴと言えるものである。
ステージにはわりと厳つい感じの黒人さんを含んだ男性だけによるバンドが(みな、若くなさそう)。
なんだかブルーノートかコットンクラブあたりでやりそうな、昔のソウル・バンドっぽい佇まいだ。
さすがに中央にステイシーが立ったことで少しは華やいだが、彼女の雰囲気を除けばあまりに飾りがない(けど、彼女が出てきたときには、やっぱりすごく大きな歓声があがったなぁ)。
ステイシーのワンピースはガーリーで可愛いが、しかしステージ衣装といった感じではなく、そこでも“ナチュラルな私”という行き方。
それにしても、彼女は3ヶ月前に会った時に比べ、ずいぶん細くなってた。
頑張っておとしたのね。
ステージは何一つ演出なく、ただただステイシーの歌を聞かせることだけで進んでいった。
まさに、「ソー・シンプル」。
これはもう、とにかく今のステイシーのモードであり、信条であるのだろう。
飾り立てることが嫌なのだ。
「ダンスもいらない。演出もいらない。衣装も凝らない。私は歌う。それを聴いて」というあり方。
それは、歌うことへの思いの強さであり、歌への自信でもある。
で、実際、彼女、歌唱力はある。
だから、数曲ならそれもいいと思う。
けどね。
どうかなぁ。
気持ちはわかるが、ここまで徹底しなくても……という気になったのだ、僕は。
厳しく言うと、歌唱力はあるが、1時間半とかをそれだけで引っ張ることが出来るほどのレベルではない。レベルではないというか、だってそのレベルって、それはもう本当にベテランの大歌手の域なのだから。
歌われるのは、完全に新作の曲ばかり。
アイズレー・ブラザースの「Foot Steps In The Dark」なんて曲に挑戦したりもしてたけど、これは彼女のファンの若いコたちには難しいでしょう。
で、ファンのコたちは、やっぱり大ヒットした1stからの曲ももっと聴きたかったと思うのだが。
それ、中盤で「Stuck」と「More to Life」を歌っただけ。しかもメドレーで、あっさりと。
「ソー・シンプル」という信条と行き方は、アルバムではよかったと思う。
というか、僕は『ビューティフル・アウェイクニング』というアルバムを(仕事と切り離しても)相当好きで聴きこんでいたのだ。
けど、それはそれとして、ライヴではもっとエンターテインメントに行ってほしい。
だって、まだ若いんだから。
歌を聞かせたい気持ちはわかるけど、それは別のやり方でも出来るはず。
僕は、やっぱり前回のライヴのあのバランスが最良だと思うんだなぁ。
今度会うことが出来たら、それはちゃんと言っておきたいと思う。
『ビューティフル・アウェイクニング』
(東芝EMI)
何度でも聴いていられた好アルバム。
今回のライヴではほぼ全曲歌われた。
