9月9日(土)


国立代々木競技場第一体育館で、宇多田ヒカル。


前の記事の続きです。



さて、結論から書くと、この日のライヴの僕の感想は、「よかったところはよかったが、よくなかったところはよくなかった」というもの。

場面によって印象がまちまちなのだ。


まず、構成、選曲、演出は非常によかったと思う。


置き場所が難しそうながらも、彼女自身にとっては重要曲である「Passion」をド頭にもってくる意表。

「This Is Love」「travering」「Movin'on without you」と、疾走感のある曲を続けてトントンと繰り出すテンポのよさ。

「Final Distance」、そして「First Love」で切なさと郷愁を味わわせる、前半から中盤へのもっていき方。

Utada名義で発表されていた英語楽曲を3曲まとめ、一つの場面として完結させる潔さ。

一転、弦楽をフィーチャーしたセットで、「Be My Last」と「誰かの願いが叶うころ」をじっくり聴かせる展開の妙。

そこから「Can You Keep A Secret?」「Addicted To You」「Wait&SEE~リスク~」といった、ある意味、彼女の真骨頂とも言える切迫したムードの曲で加速していく終盤と、名曲「Letters」で辿り着ける開放。

アンコールでは、やっぱりみんな聴きたい「Automatic」を楽しげに歌い、そして最後の最後はアンセム的な「光」で締めるところに込めたメッセージ。


アップとスロー。異質なビート感の英語曲と、アコースティック・セットのバラード。そのように数曲ごとにまとめ、緩急つけた場面転換を見せながら、これまでのキャリアも見通せるというその構成は、実に練られていたし、最良とも言える形だったんじゃないかと思う。


演出に関しては、とにかく背後にどーんとあるLEDスクリーンと、そこに映される紀里谷和明氏の映像。それと、歌&演奏との同期。これにつきるのだが、これは明らかにアンダーワールドのライヴにおけるトマトのそれを意識したものだろう。

よって、「This Is Love」[travering」……あたりの疾走感ある曲の並びには、これがとりわけ効力を発揮した。

全編通して、もっとも映像演出が効果的だったのが、この最初の数曲だったと言えるだろう。

(但し、映像の内容自体は、かなり意味不明)

で、肝心の宇多田ヒカルのヴォーカルだが、全編通して見れば、この日はかなりいい状態だったと言える。

さいたまアリーナ公演も観ていた人に聞いたら、段違いというか、別人と言ってもいいほどよくなっていたと言っていた。

前回の武道館といい、やはり彼女は徐々に調子を上げていくタイプなのだな。


とりわけこの日、ヴォーカルの力をしっかり感じられたのが、Utada名義の英語曲3曲(特に「Devil Inside」)だった。

「Devil Inside」「Kremin Dusk」「You Make Me Want To Be A Man」。

これらを歌った時の彼女の集中力、その入り込み方は、特筆すべきものがあった。


ただ、ほかの日本語楽曲と、これらの曲は、ビートの構造がまるっきり違う。

だからか、客席を見ると、みんな呆然とした感じで、その場に立っている。

このビートは、かなり自然にカラダが動いてしまうものだと僕は感じたのだが、いわゆるJ-POPの構造に慣れている人たちにとってはそうじゃないようだ。

それとも単純に、Utadaのアルバムは、みんなあんまり聴きこんでいないのだろうか?


さて、このUtada枠がテンションを含め素晴らしかっただけに、僕は次の「Be My Last」と「誰かの願いが叶うころ」にはガッカリしてしまった。

いや、アレンジそのものと演奏はいいのだ。

が、彼女の歌唱が、そのアレンジについていかない。

音程が揺れまくっている上、息苦しそうにすら聴こえてきて、聴いてるこちらも苦しくなってくる。

どうにも無理してる感じが伝わってしまうのだ。

これらの曲をこのアレンジで歌うには、もう少しヴォイトレなりして技術をつける必要があるだろう。


だが、その2曲を終えての後半戦「COLORS」以降は、再び声の出がよくなった。

「Addicted To You」など、毎回ライヴで歌ってる曲などは、実に滑らか。

「Wait&SEE~リスク~」の、シャウトにも似た声の張りは、英語曲に並んで胸に迫ってきたほどだった。


それと、本編の終わりの前にやった「Letters」。

僕は宇多田ヒカルの全楽曲の中で一番好きな曲であり、椎名林檎も以前何かのインタビューでこの曲を絶賛していたが、宇多田ヒカル自身もそうだとMCで言っていて、それにはなんだか嬉しくなった。


それにしても、なんでこんなに一つのステージの中でいいところとよくないところがあるのだろう。

気持ちよく聴こえるところと息苦しく感じられるところがあるのだろう。

そもそも、どうしてそんなに日によってムラがあるのだろう。


それはひとえにライヴ経験の少なさからくるのだと僕は思う。

何年もやらなくて、たまにやるのがこのような大会場だと、そりゃあ、いくら勘のいい彼女とて、なかなか自分らしいステージ運びとか歌い方というものをつかめないままだろう。

いろいろ事情はあるのかもしれないが、やはりもう少し頻繁に、そして出来れば渋公とかサンプラといった音響もちゃんとした中ホールで、もっとライヴを重ねていくべきだ。

それによって格段に成長するのがわかっているから、僕はあえてそう書いておく。








これはUtadaの『EXODUS』のUK盤。

日本でも、もっと高く評価されていいアルバムだと思う。