5月17日(水)
日比谷の東宝本社ビルで、『嫌われ松子の一生』の試写を観る。
ずいぶん前に試写の案内をいただいていて、観よう観ようと思いつつもタイミングが合わずにいたのだが、近々またボニー・ピンクに取材することになり(7月に初のベスト盤をリリース!)、こりゃ会う前に観とかねばと思って、日比谷へゴー。
ここ、音もいいし、椅子もちゃんとしてて、普通にミニシアターで観てる感覚に近いみたい。
中島哲也の映画といえば、『下妻物語』は飛行機の中で観て、ぶっとんだものだ。
期待して観たわけじゃなかった……というか、ほとんど前情報・前評判を知らずにたまたま飛行機で時間つぶしに観たのだったが、びっくりするほど面白くて、あれは絶対観るべきだといろんな人に薦めたりした。
その中島哲也が山田宗樹の『嫌われ松子の一生』を撮っていて、それにボニー・ピンクが出演するとワーナーのスタッフから聞いたのは、去年の春頃だったか。
ボニーの役がソープ嬢だということにも驚いたが、あの悲惨な小説をミュージカル仕立てにしているということにはもっと驚いて、正直、「なんじゃそりゃ? 一体どんなことになるんだ、それ?」と思ったものだった。
さて。
映画は、所謂ミュージカルとは違うが、しかし歌詞付きの音楽をふんだんに用いて、その音楽にのせた映像表現という形で非常にテンポよく展開していく。
このテンポ感がまず気持ちいい。
このテンポ感は年配の方にはどうなのかとも思ったが、僕の近くに座っていた50代くらいのおばさんはちゃんと笑ったり泣いたりしていたので、こちらが思うほどに“若い人向けのテンポ”ということではないのかもしれない。
なにせ松子の「一生」なのであるからして、話も長尺かつ濃密で、登場人物も多いわけだが、それを2時間ちょいの映画に凝縮するのに、歌詞付きの音楽に多くを語らせるという手法は大正解だったと言えるだろう。このアイディアだけでもう、中島哲也、さすがと言わざるを得ない。
だが、もしもこれが音楽に興味の薄い人、今のポップの面白さをわかっていない人が撮っていたなら、こんなに見事な出来ばえにはなっていないはず。
そこが、まず僕が強く感じた一点。
つまりこれは、音楽に愛のある人、ポップの面白さに普段からワクワクしている人が作った映画であるということだ。
ソープ嬢のボニー・ピンク。ソープのマネージャーであるスカパラの谷中敦。音楽畑からの、このあたりの人選も抜群であり、中島監督は普段から気にして見ていたということだろう。
冒頭の木村カエラだけは、今が2006年であることを示すということ意外に特別な意味は見出せなかったが、それをのぞけば、全ての人が確かな意味を持ってそこに存在している(あっ、もしかしてカエラは意味の見つけにくい空虚な今という時代の象徴ということ?)。
プログラムによると、撮影前から中島監督は、アーティストに音楽を使用するシーンのテーマを伝えるなど、入念な打ち合わせと音楽設定をしていったそうだ。これにはかなりの時間を費やしているという。
出来上がった映画に、いかにもな音楽を「あてがう」のとは根本的に違っている。それは、もちろん音楽がこの映画において重要だからでもあるが、それ以前にこの人は音楽が、ポップが、大好きなのだろう。
そういう感じが、いろんな場面の音楽の使われ方からビシビシ伝わってくるのが、音楽好きにとっては嬉しい。
AIちゃんの曲も「らしくて」いいが、やはりなんといってもボニー・ピンク。このテーマ設定によって、アーティストとして一皮剥けた感すらある。
もちろん音楽アーティスト以外のいろんな人の起用の仕方も巧く、ゴリや劇団ひとりの存在感は特に強く残った。
プロの役者陣の中では、まず、黒沢あすかが、いい!(僕はまだ音楽に限らず仕事をしていた頃に、この人に一度インタビューしたことがあって、その時からその“いい女っぷり”にはやられているのだ)。
クドカンも、さすがにもの書きだけあって、作家の卵の煮詰まり具合をうまく表現していて印象に残った。
伊勢谷友介もいい。
あと、幼少時代の松子を演じたあのコも。記憶に残る“ヘン顔”でしたね。
そして…誰より瑛太。よかったなぁ~。彼は本当にどんどん役者らしく、よくなっていくよね。今、若手俳優で、もしかして一番いいんじゃないかってなくらい。
そのほかにも大勢の登場人物が、その多くはほんとにちょっとした場面で数分出てくるのだけど、みな、松子の一生に濃密に関係し、松子の人生の行方を大きく動かしていく。
意味のない関係の仕方など、ひとつもない。
そう、人生において、意味のない出会いなどないのだということがわかるのだ。
そして、登場人物の誰もがキラキラ輝いている。
一人として無駄な人間などいないということの証であり、一人一人に中島監督の愛が行き渡っている。
だから、あんなこともあって、こんなこともあって、それはもうホントにいろんなことが次々にふりかかってくるのだが、あれだけ詰め込んでても余計なエピソードはひとつもないし、焦点がぼけることもないし、余計な人間も一人もいないし、その全てがちゃんと松子のもとに返ってくるのだ。
一瞬たりとも退屈させないテンポ感。
松子の心情によって自在に変化しつつ、どこか郷愁も感じさせるように作られたCG表現による映像世界。
やがて全てが線になる本と編集の巧さ。
文句のつけどころがない。
いや、ホント、面白すぎです。
笑えて、泣けて。
『下妻物語』を超え、映画として完璧だと言いたいくらい。
中島哲也、天才じゃないか。
あと、もちろん主役の中谷美紀も、これをやれるのはこの人しかいないでしょって感じなのだが、僕はこうも思いましたね。
これってもしかして、中島哲也による、『ケイゾク』の柴田純へのオマージュか、ってね。
『嫌われ松子の歌たち』(ワーナー)
中谷美紀が歌う「Happy Wednesday」(作曲は渋谷毅!)が秀逸。
あの場面が甦りますね。