3月18日(土)
渋谷クラブクアトロで、airdrop。
僕がairdropの音楽に出合ったのは、去年のことだ。
「聴こう」と思って聴いたのではなく、まさに「出合った」という言葉が相応しい。
何月だったか忘れてしまったけど、同業の友人のH君と某レコード会社のYさんがよく行くという参宮橋のバーに連れて行ってもらい、そこで呑んでる時にお店のDJの人がairdropの曲をかけたのだ。
なんか、いいなぁ、この曲。この声。
「これ、誰ですか?」
僕は訊いてみた。
airdropだと言う。
聞いたことのなかった名前だったので、CDを見せてもらった。
可愛らしい絵のジャケット。
それは「よりみちパスポート」という5曲入りのミニ・アルバムで、かかっていたのはその表題曲らしかった。
酔っ払ってて忘れそうだったので、箸袋の裏にairdropと書いて持って帰った。
翌日、検索して、彼らのホーム・ページを見た。
三宿のカフェをベースにライヴをやったりしているらしい。
そして渋谷のタワーで「よりみちパスポート」を買った。
大好きになり、その数日後にはそれまで出ていたほかのミニ・アルバムなども買い揃えた。
それからしばらくしてアルバム(『drops』)も出て、それもやっぱりすごくよくて、繰り返し聴いていた。
僕はそんなふうに彼らの音楽と「出合って」、そして大好きになったのだ。
大袈裟な解釈だけど、なんだか運命的な出合いだったよな、なんて思っている。
さて、今日のライヴ。
タイトルは、「クアトロカフェ●お花見カフェにおいでよ●」というもの。
メンバーの荒木健文が、フライヤーにそのコンセプトを寄せているので、ちょっとそれをそのまま転載させてもらおう。
「airdropはカフェでライヴを続けてきました。
お茶を飲んだり、ごはんを食べたり、話をしたりしながら、ゆっくりと音楽を聞いて欲しい、ずっとそう思ってきたから。
今回、ライヴハウスのクアトロでライヴをやることになって、思いきってクアトロをカフェにしてしまおうというちょっぴり無茶な(?)考えが浮かびました。
椅子に座って、お茶を飲みながら…、春の一日にそんなのんびりとしたクアトロがあってもいいでしょ。」
というわけで、会場に入る階段のところから、アルバム『drops』のジャケを描いている人による可愛らしいイラストが張られ、そして中に入るとフロアにはカフェのように丸いテーブルと椅子が並べられ、お客さんたちはそこに座っていた(テーブルには一輪挿しが置いてあった)。
ドリンクはビールや烏龍茶だけじゃなく、カフェオレもあって、多くの人がそれを飲んでいた。
僕は当日券でギリギリに入ったので立ち見だったけど、その雰囲気をとてもいいなと感じていた。
最初に登場したのは、ゲストとして招かれたトルネード竜巻。
初めて観たけど、ヴォーカルの女性はとっても美人さんですね。
30分くらい演奏して、休憩。
そして、airdropの登場。
airdropは、歌をうたう女性の大枝夏野子さんと、ピアノを弾く男性の荒木健文さんによる二人組。
ライヴではそこにギターとベースとドラムの男性が加わってバンド形態になる。
結論から書くと、今日のライヴも本当に素晴らしかった。
優しくて。あったかくて。柔らかで。包み込むようで。時々ちょっと切なくて。
そういう音楽なんだけど、揺らいだり頼りなかったりするところがまったくない。
ヘンな言い方だけど、“強固な柔らかさ”とでも言おうか。
優しくありたい。大事なものを大事にしたい。そういう気持ちが、しっかりと揺るぎのない音楽になっているのだ。
根性入った、ふわふわ。
語義矛盾だけど、なんかそんな感じ。
なぜ「お花見カフェ」なのかというと、ステージ右手に窓の形をしたスクリーンがあり、そこに桜や電車やいろんな景色が映し出されたりしているから。
桜の映像と音楽がマッチしていて、とてもいい効果を出していた。
途中には、これまたいかにもairdropらしいんだけど、お茶の時間というのがあった。
入り口で配られたクッキーをここで食べて、カフェオレをおかわりして、しばし休憩を、というのだ。
その間、ヴォーカルの大枝さんも一度引っ込み、バンドはゆったりと演奏を続ける。
ほかのライヴじゃ考えられないけど、こういうのも含め、airdropのライヴ空間というものが形成されている。
airdropの音楽を聴いていると、無性に散歩したくなってくるんだ。
前に僕たち夫婦は三宿の緑道沿いの家を借りて住んでいたんだけど、晴れた日にその緑道をブラブラ手繋いで歩くのが好きだった。
なんか、またそうやってあの道を歩きたくなってくる。
一番大事な人と、さりげなく過ごしている日常。
その、大切さとか、一時のちょっとした幸せとか。
そういうものが、かけがえのないものなんだと思えてくる。
airdropの音楽というのは、つまりそういう音楽。
たぶん、今日のライヴを観ていた人はみんな、自分にとっての一番大事な人とまた散歩でもしたくなったんじゃないだろうか。
本編の一番最後に歌われたのは、彼らの歌の中でも僕が特に好きな「休日」という曲。
“今日会えないこと 明日会えないことが 寂しいわけじゃなくて
「あなたに会える日がある」 そのことを 強く感じられることが嬉しい”
いい歌詞だなぁって、しみじみ思う。
大枝さんは、歌の表現力も素晴らしいんだけど、歌詞がまたすごくいいんだ。
それは、彼女の人柄というか、「大切なことを大切にしたい」という思いがそのまま出ているから。
「airdropの音楽が、みなさんの日常と一緒にあることが出来れば嬉しい」というようなことを最後に話していたけど、うん、僕の日常には、ある。
airdropの音楽は、聴いた人の数だけ広がるものだと僕は思う。
いやらしい言い方になっちゃうけど、つまり、メジャーのレコード会社でしっかり宣伝して売られたら、何十万枚も売れるだろうポテンシャルはしっかり備わっていると思う。
だけど、ファンの一人として思うのは、そういうふうには売れてほしくないというか、やっぱり今のようにカフェでやりたい時にやって、たまに今日みたいにクアトロでもやったりして、メジャーとは契約しないで、のんびり自由にやっていってほしいということ(って僕なんかが書かなくても彼らはそうするだろうけど)。
いい音楽、いい歌を、宣伝とかに頼らずにちゃんと嗅ぎ分けることの出来る人が、彼らの音楽を好きであり続ければ、それがいい状態なんじゃないかなと僕は思う。
だからヘンな話、あんまりたくさんの人にairdropの音楽のよさを教えたくはないんだけど。
でも、やっぱり、とってもいい音楽だから、興味があれば、見つけてみてください。出合ってみてください。
忙しくなって、普通に見えていたものが見えづらくなった時、彼らの音楽を聴けば、またちゃんとそれを見れるようになるから。
当たり前にあるその景色や、当たり前にいるその人(家族とか友達とか恋人とか)が、自分にとってどんなふうに大切か、ちゃんと気づくことが出来るから。
このライヴの模様は、スペースシャワーTVで、5月4日、23時半から30分オンエアーされるそうです。
今日のフライヤーと、配られたクッキーと、eau cafeとairdropのダブルネームのカップ
最初に好きになったミニ・アルバム
『よりみちパスポート』