表現手段として音楽があるのではない。
そうではなく、その人が音楽そのものなのだ。
そんなふうに感じたアルバムが、最近、2枚あった。
1枚は大ベテランが10年ぶりに出した新作。
もう1枚は新人のデビュー作。
前者はスティーヴィー・ワンダーの『タイム・トゥ・ラヴ』で、
後者はラウル・ミドンの『ステイト・オブ・マインド』である。
24日(月)
全日空ホテルにて、そのラウル・ミドンにインタビュー。
アメリカ・ニューメキシコ州生まれの、盲目のソウルマン。
母親はアフリカ系アメリカ人で、父親がアルゼンチン人。
年齢は明かされていないが、30代半ばらしいという噂。
てっきり20代半ばか後半くらいかと思っていたが。
本当なら遅咲きの新人である。
これまでルイ・ヴェガのアルバムに参加したり、そのブルーノート東京公演に客演するなどといったこともあったらしいのだが。それを僕は知らなくて、彼に関する何の知識もないまま、夏に初めてアルバム『ステイト・オブ・マインド』を聴いた。
そして、ぶっとんだ。
担当しているGrazia誌のCDレビューに、僕はこう書いた。
「こいつに音楽の未来を託したい」。
今もその一行は大袈裟ではなかったと思っている。
この冒頭に書いたこと……つまり、手段ではなく音楽そのものに思えるということ。
そして、最近それを感じたのは、スティーヴィーの新作とあなたのデビュー作であると。
最初にそうラウルに伝えると、彼はとても嬉しそうに微笑んで、「アリガトー」と日本語で言ってから、「最高の褒め言葉だね」と照れた。
謙虚な人だった。照れくさそうに微笑んでみせることが多かった。
キレイな心を持った人なんだなということが、話していて伝わってきた。
子供の頃からいろいろな音が音楽のように聞こえたという。
車のウインカーの音からコオロギの鳴き声まで、そこにリズムを感じていたという。
盲目ゆえの特別な聴覚、か。
聴きたくないのに耳に入ってきて、不快になる音というものもあったのだろうか。
そう訊くと、「あった。それは人が苦しんでいる声や音」だと言った。
スティーヴィー・ワンダーにハービー・ハンコック。
新人ながら、既にそのような人たちと共演を果たしている彼。
今後、願いが叶うなら、誰と共演したいですか?
彼はこう答えた。
「ポール・サイモン。チック・コリア。プリンス」。
いい話をたくさん聞けたと思う。
自分の好きなアーティストのインタビューが、いいものになると、とても充実した気持ちになる。
終わってから一緒にポラを撮らせてもらい、「サインをしてもらうことは出来ますか?」と僕は訊いた。
スタッフが写真とマーカーを彼に渡すと、彼はその形を手で確かめ、そして写真の一番下に左手を置き、その上にサインをしてくれた。
CDジャケットにもサインしてくれた。
恐らく書き慣れていないサインなのだろう。
子供が書いたみたいな字だった。
ヘンだけど、僕はなんだか感動してしまった。
すごく嬉しかった。
その夜、代官山UNITでショーケース・ライヴ。
渋谷から代官山に行くのに、慌てて飛び乗ったのが急行で代官山通過。
ああ、こんなことをしょっちゅうやってるダメな僕。
会場に着いたら、やはりもう始まっていた。
入り口から人が溢れ出しているほどの大入り状態。
遠くて、ギターを弾く手が直接見えず残念だが、遅れた自分が悪い。
独演で約40分のステージ。
歌声もギターもマウス・トランペット(口でトランペットみたいな音を出すあれ)も素晴らしかった。
終演後、スタッフや関係者が残っての軽い打ち上げ。
しばらくした後にラウルも登場。
そこでまた、少しだけ話すことが出来たので、「バンド・スタイルでやるプランはないのですか?」と訊くと。
自分ひとりでやる以上に、いい状態に持っていけると思えるミュージシャンが見つかるまでは、バンドでやるつもりはないとのことだった。
話している時、彼はずっと手を握ってくれていた。
何かをもらったような気がして、僕はいい気持ちになり。
その後、当然……飲み。
ラウルな一日。
なんか、いいでしょ?
