時間というものは残酷で

智との思い出が徐々に薄らいでいく………



智が膝を抱えて座っていたソファーに

いつのまにかパッチワークのカバーが掛かっていたり

あまり物が無かったのに

ところ狭しとおもちゃが溢れ

それは廊下にまで続いていたり

庭には子どもたちの三輪車が2台。

新しい風景が増えていき

どんどん思い出が消えていく。




それでも、アトリエだけは

ここだけはそのままにしてある。

ここにくれば、智はいつも同じように迎えてくれる。

イーゼルの上の俺。

そのとなりには智と撮った最後の写真。

少しカビ臭さと油絵具の匂いに混じって

ほんのり智のにおいがするように感じて目を閉じると

俺の隣で

「翔くん、ちゃんとお父さんしてるじゃない。」

って、笑ってる智が現れる。

「俺の事なんて忘れていいんだよ。

俺の分も幸せになってよね。」

そう言って綺麗な笑顔を俺に向ける。

『わかってるよ。

俺は幸せだから…………安心して……』

と言う俺の目からは一粒の涙が溢れた。





『………パパ……?…』

かわいい声に振り向くと

娘がアトリエの入り口に立っていた。

『おいで………』

と、手招きすると

小さな娘が恐る恐るアトリエに入ってきた。



その子を抱き上げると

不思議そうな顔をして

『……パパ………』

と、イーゼルの上の俺を指差した。




『そうだよ。

これはパパの大事な人が描いてくれたんだよ。』


まだ4歳の娘に言ったところで

理解できないだろうと思いながらも

『パパの大事な人。

その人はもうこの世にはいないけど

こうしてここに立つと

会えるんだ。』

と、話すと

『ふ~ん。』

と、興味もないような返事をして

初めて入ったアトリエの中をキョロキョロと見てた。


『ほら、

お兄ちゃんが呼んでるよ。

お行き。』

外で遊んでいた息子が大声で呼ぶ声に

娘は

『まってて』

と、走っていく。

俺の感傷なんか子どもたちの破壊力で

吹き飛んでしまう。





「ハハハ、元気だね。」

『もう、大変だよ。』

「ちゃんとお父さんしていて安心した。」

『…………そうだね。

智の言いつけ通り

ちゃんとお父さんしてるよ。

俺、頑張ってるだろ。』

「ふふふっそうだね。」

『だから…………………』

(俺を早く迎えに来てくれ)と、言おうとして

止めた。



本当は…………

俺………………………

智がそばにいなくて………

智に会いたくて…………

寂しくて……

苦しいのに…………

今でも智の姿を探すのに………

時間の流れは残酷だ。



生きてる…………

生きる…………

って、こう言うことなんだと思う。

今、こうして家族で

毎日忙しく大変ではあっても

俺は…………

幸せを…………感じてる………

『ごめんな。

……………智……………』





「いいんだよ。

それでいいんだ。

翔くんが幸せなら………

翔くんが幸せそうに

笑っていてくれるなら………

それが俺の幸せだから………

それで…………いいんだ。」


写真の中の智が

そう言って笑っているように見えた。