「…………ここは…………」




深い霧の中で手探りをしながら

歩いていた。

何かを探してるような……

でも、その何かがわからない……

トンと、何かに触れた気がして

見上げると

そこには大きな銀杏の木が立っていた。

「あっ………ここは…………」

見覚えのある大きな木。

それを見上げているとふと


「……翔くん………遅いよ。」

と、聞き慣れた声。

振り向くとサーっと霧は晴れて

水銀灯の下で智が笑ってた。



「ごめん。

遅くなった。

待った?」

俺は智の方に向かって歩いていく。

なのに、なぜか縮まらない二人の距離。

怖くなって

「………智………」

と、手を伸ばすのに

手すら届かない。

怖い。

血の気が引いていく。

「………智………

こっちに来て………

そっちはダメだよ。

こっちに来て。

お願いだからこっちに来て。」

智が二度と俺の手に戻ってこないような

そんな予感に

俺は焦った声になる。

「………翔くん………

ごめんね。

そっちには行けないよ。

だって、ほら見て。」

と、指をさした場所は

俺と智の間にある亀裂。

それは深くて底が見えない。

俺の足が恐怖に震え出した。

でも、ここで智を見捨てられない。

智を助けなきゃ。

「お、俺が飛び越えて

そっちに行くから

待ってて」

1メートル程の幅。

(大丈夫。

これくらいなら飛べるさ。)

と、飛び越える算段をしてるのに

「翔くんはこっちに来れないんだよ。

来ちゃいけないんだから」

と、智。

そして、

「………翔くん………

翔くん…………

大好きな…翔くん………

愛してるよ。

とてもとても感謝してる。

言葉にできないぐらい………

俺を…………

俺みたいなやつを………

ずっと、待っていてくれて

ありがとう。

移植なんて痛い思いさせてごめん。

なのに、元気になれなくて……

ごめんね。」

と言って微笑む。

それはそれは綺麗に微笑む。

俺は鼻の奥が痛くなり胸が苦しくなる。

「な、何……言ってんだよ。

そんなこと…………なんとも思ってねーよ。

だから………早く…………こっちに来い…………

俺が…………受け止めてやるから………

ほら、早く。」

俺は両手を広げて

智を受け止める体勢をとってるのに

「……翔……くん………

……翔くん…………

愛してるよ。

いつか、いつか迎えに来るから

それまで…………

一生懸命……………生きてね。」

と、言う。

「待って待って…………やだよ。

智………………

智………………

行くな。

行くなよ……………」

俺の言葉は嗚咽になり

いつしか俺たちの間を霧が覆っていった。

「智…………

智…………

智……………」





『………智……』


俺は泣きながら目を覚ました。