『やっぱり来てたんだ。』
不意に掛けられた声に驚いて振り向くと
そこには婚約者の多部ちゃんが立っていた。
上京して5年。
明後日には結婚式を挙げる俺たち。
懐かしくなって
俺は夜散歩に出掛け
中学生の時に智と待ち合わせていた
神社の脇の銀杏の木の下にやって来た。
懐かしい思い出に浸りながら
胸がグッと締め付けられる感覚に涙が溢れる。
まだ…………
こんなに好きなのに………
まだ…………
こんなに鮮明に思い出すのに……………
智…………
お前はどこにいるんだよ。
俺は今でも
やっぱり智が好きだ。
それは思い出が美しすぎて
自分の中で美化してるだけなのかもしれない。
それでも…………
こうして今でもお前を思い出すと
胸が痛い…………
智………………
お前は…………………
今……………幸せですか?
銀杏の木を見上げて想いにふける。
そんなときに
『やっぱり来てたんだ。』
と、声を掛けられた。
『た、多部ちゃん。
ど、どうして?』
動揺してる俺。
見られちゃいけない人に見られた罪悪感。
「忘れた」なんて言っといて
やっぱり未練がましくここに来てる俺。
多部ちゃんは気づいてたんだ。
俺がまだ智を………好きだってこと…………
多部ちゃんは、ゆっくり近づいて来ながら
『どうして?
そうね。
なんとなく…………
櫻井くんがここにいるんじゃないかなって
思ってきてみたの
だから、やっぱりなって思って………』
と、
顔が笑ってない。
『ご、ごめん。』
俺は、頭を下げて謝った。
結婚するって言う人が
他の人を思ってるなんて知ったら
嫌な気分になるよな。
『…………大野くん…………
待ってたんでしょ?』
多部ちゃんから出た言葉に
「バレてた」と、体が一瞬揺れた。
『いや、
その…………
待ってたって言ったって
あいつはどこにいるかもわかんないし
もう、昔のことだよ。
ただ、懐かしくなってここに来てみただけ
ごめん。
本当に意味はないんだ。』
と、一生懸命言い訳をして
多部ちゃんに許しを求めてる俺。
でも、心に中にいつまでも智がいるのに
多部ちゃんと結婚するのも
誠実なのかって考えると
それもどうかなって思うところもあるけど
兎に角、
「ごめん。」と謝った。
すると、
彼女が
『フェアーじゃないことしてるのは
私の方か。』
と、言ってクスッて笑う。
意味がわからず
変な返事をすると
彼女から思わぬ言葉が帰ってきた。
『大野くんがなにをしてるか
私、知ってるんだ。』