『もー、
ビックリしたじゃないですか。』
と、俺は先輩を睨み付けた。
『だって、お前ってば様子が変なんだもん。
知り合いかと思ってさ。』
先輩は気をきかせたつもりか?
『ねえ、君。』
先輩が、無事に通りすぎてくれたニノを呼び止めたから
俺はビックリ。
瞬間、顔を伏せて
見つからないようにしながら
サイドミラーに写るニノを見ていた。
『この辺に、
お茶が飲めるところって
あったりするかな?』
つまり、喫茶店みたいな所があるかと
ニノに尋ねてる。
事前に、そんなところは無いって言ったのに
先輩は、わざと呼び止めたんだ。
ニノは訝しげに
『すみません。
この辺にはないと思います。
あるとしたら、
ちょとしたマーケットぐらいですから。』
と、言うと
ペコっと頭を下げて自転車を漕いでいく。
ニノの声は、懐かしくて
去って行くその後ろ姿を見送りながら
隠れている自分が悲しくなった。
会いたいけど………………
俺…………………
会ったら…………………
行きたくなくなっちゃうよ………
薄汚れた俺の…………
正体がバレちゃう…………
そんなの………………いやだ。
ニノ…………………………
ニノ…………………………………
『……………無い…………ってさ。』
と、不意に聞こえてきた先輩の声。
一瞬、泣きそうになったのを堪えて
『もー、ビックリしたじゃないですか。』
と、俺は先輩を睨み付けた。
『…………お前の知り合いかと思ってさ……』
もしかして……彼が、翔くん?』
と、勘違いしてる。
『違います。
ニノは………彼は、俺の大切友人です。』
『なら、会ってこいよ。
もう、会えなくなるかもしれないんだぞ。
これからどこに行くか
教えてあげればいいのに。』
『いいんです。
いいんです。
それより…………
もー、行きましょ。
連れて来てもらっておいて
なんですけど…………』
俺は、自分に言い聞かせる。
俺はもう過去の人間で
ここには必要じゃない。
俺は、もうここには帰ってこない。
もう………
会わない……………
そう決めたんだ。
自分の故郷を後に
車は走り出す。
走り回った田んぼ道も
ザリガニ釣りした用水路も
かくれんぼをした神社も
翔くんと待ち合わせた銀杏の木も
俺の家も
バイバイ。
去り行く景色に自然と涙が溢れてきた。