それからの俺は

普段と変わらない態度で過ごしながら

少しずつ少しずつ事を進めていった。




潤くんも何だか3年になってから

家から呼び出しを受けることが多くなり

俺が一人でいる時も増えた。

それが、何かの意図があるようにも思え

これ幸いと動く事ができた。



先輩のおかげで

直接、平谷先生にも会えた。



先生は、優しそうなおじさんで

先の戦争で一度死にかけたとかで

足が悪そうだった。

奥さんは明るくて

とっても優しい人。

雰囲気がちょっと母ちゃんに似てた。




養子の話もされたけど

まだ、お互いに結論を出すのは先にして

兎に角、一緒に暮らして

先生から基礎を教わりながら

画家を目指してみては……

となって

俺は、この学園を

とうとう出ていくことになった。




これからどうなるんだろう…………



海外で暮らすなんて…………


何も知らない土地に行くのは……………



やっぱり………………



不安……………




それと共に……………



潤くんのことも………………



否、


考えるのはよそう………


今は…………



この流れに乗ってみようと思う。










夕食のハンバーグを食べていると

『俺がいないとき何してたの?』

と、聞いてきた潤くん。

昨日から実家に行っていて

今、帰ってきた潤くんに

『部屋でボーッとしてたよ。』

と、ご飯を頬張りながら普通に答えた。

『ふ、ふ~ん。』

と、潤くんはそれ以上聞かない。


って言うか

聞けなかったんじゃないかな。

って思う。



だってこの時

俺は知らなかったけど

潤くんの婚約が正式に決まり

お披露目のパーティーや

挨拶回りで

潤くんの意思とは逆に事が

どんどん進んでいて

取り返しのつかないところまで

きていたようだったから……


潤くんも、本当は辛かったんだろう………

でも、会社のことや従業員の事を思うと

どうしようもなかったんだと思う。


俺は、怨んでもないし

苦しんでもいない。



俺の人生は確かに

潤くんによって大きく左右されたけど

その時その時、潤くんがいてくれたことに……

助けてくれたことに…………

感謝もしている。


俺にできることといったら

潤くんの幸せを壊さないように

姿を眩まして

陰ながら願うことぐらいだ。





6月のある日。

そう、明後日には日本を発つ日。

荷物も殆どないけど

荷造りをして

寮から現地に送る手はずも整えて。

潤くんには内緒でここを出ていく。



友達にも内緒。

ルームメイトも知らない。

先生だけが知っている。



朝、先輩が車で迎えに来た。

潤くんが「どこに行くんだよ。」

って、聞いてきたけど

『前から見たい美術展のチケットを

先輩が持っていたから

見に行ってくる。

夕方には戻るから

じゃあね。』

って、寮を出た。


さも、「ちょっとそこまで

すぐ帰ってくるよ」って言わんばかりに

手を振って車に乗った。




車に乗ると

『いいの?

もう、会えないんだぞ。』

って、先輩が言うから

『いいんだ。

だから、早く出して。』

と、お願いして

車は学園を後にしていく。




この学園…………

楽しい事もあった

でも、苦しい事もあった。

怖い思いもしたし…………

嫌な思いもした。



潤くんが俺を好きだって言って

俺も潤くんの思いを受け入れて

幸せな時間もあった。

でも、それは儚くて束の間で

手に入るものではないから

ひたすら求めていたのかもしれない。



潤くんは、これから

俺を忘れて……………

桐谷さんと幸せになってもらいたい。



それが俺の願い。









走り去る窓の景色を

俺は涙を堪えながら見送った。





『バイバイ………………

潤くん。

ありがとう………………』