『もう、終わりにしよう。』
潤くんは黙って俯いて
その潤くんをそのままに俺は部屋に入った。
俺と潤くんの間をドアが静かに隔てていく。
一瞬見せた潤くんの悲しそうな表情に
俺の心臓が握り潰されたように痛い。
夜。
消灯近くになって、俺に電話だと
寮長が部屋にやって来た。
『…………もし……もし………』
相手は誰かを告げなかったというから
俺は恐る恐る答える。
『もしもし?
大野くん?
智くん?』
と、女性の声。
「まさか、漣仏さん?」
と思って身構えたら
『ごめんなさいね。
こんな時間に…………』
と、聞き覚えのある声にホッとした。
『あっ。
奈々子お姉さん。』
『昨日は、嫌な思いさせてごめんなさいね。
ちゃんと、謝りたかったのよ。
一人でちゃんと帰れたかしら………
大丈夫だった?』
『あ、はい。
大丈夫です。』
お姉さんも俺のこと気にしてくれてたんだ。
と、思うとちょっと嬉しかった。
なのに…………
『そう、
よかった。
それでね……………』
と、本題に入るお姉さん。
俺のこと心配してたっていうより
メインはこっちってことか…………
『はい。』
と、返事をしながら天井に目を向けた。
『………あのね…………
とっても言いにくいんだけど…………
昨日いた女の子たちがね………
えっと、何て言うかな………
………………』
と、言いにくそうにしている。
俺がもう一度「はい。」と返事をすると
話題を変えたのか
『あ、そう言えば………
智くん、私が昔
「潤の好きな人、知らない?」って
聞いたことあったじゃない。
覚えてる?』
と、言い出した。
『あー………は、はい。』
俺は、ドキッとして返事が裏返った。
それを知ってか知らずか
『それって…………
智くんのこと…………
だったんでしょ。』
と、言い出す。
『え?』
『昨日、彼女たちから聞いて
潤にも確かめたの。
智くん、潤と付き合ってるんだよね。』
『……………』
『ごめんね突然。
でも、はっきりさせないといけないことだから………』
お姉さんの口調は、怒ってる風でもなくて
潤くんに「確かめた」って言うけど
どのように、どこまで伝えたかがわからない。
だから、
返事に困る。
電話口でお姉さんが
『昔っから
智くん、智くんって言ってたものね。
どれだけ仲がいいのかしらって思ってたけど……
なんで気づかなかったのかしら
私たら……』
と、言うと
突然、声のトーンが低くなって
『智くん。
智くんには、いつか潤の右腕になってもらって
潤と一緒に会社を盛り上げて欲しいって
そう思って
私が、父さんに頼んで
その学校に入学させたのよ。
でも…………………』
少しの間の後
『智くんには悪いけど
潤との関係は…………………
認められないし
……………許されない。
…………………わかるでしょ。
わかるよね。
私が、何を言いたいか……………』
お姉さんの静かに言い諭すような話し方に
俺は、
『はい。』
とだけ答えて
お姉さんは
『わかってくれて嬉しいわ。
それじゃあ……………さようなら。』
と、電話を切った。
『さようなら』
俺は、機械音のする受話器に向かって答える。
『さようなら』
それは、俺に潤くんの元から消えろ。
って、意味だ。
「お休みなさい。」
じゃなくて
「じゃあ、またね。」
じゃなくて
「さようなら」
お姉さんの言葉が頭の中でこだまする。
なんだろう……………
この……………涙……………………