書いてた日記から、また引っ張ってきた。
Uから電話がきた。
何だよ、めんどくせぇな。
「あのさ、悪ぃんだけど相談があるんだよね。これから池袋来れない?」
トーンが低い。
「分かった」
まぁ友達だからな。
俺はせっかく出始めた台を手離し、池袋へ向かった。
奴は喫茶店にいた。
俺を見つけても表情は浮かない。
「どうしたよ」
早速相談に入る。
「これ見てくれよ」
奴の懐から封書が出て来た。
俺はそれを手に取り、内容を改める。
「刑事事件処分申立て通知」
何だこれ。
「今日仕事終わって帰ったら家に届いてた」
「なんでこんなもんが届くんだよ」
数年前にインターネットを介してエロビデオを着払いで購入した先が摘発され、残っていた記録から奴に手が及んだという事らしいが、かなりうさん臭い。
送り主は弁護士と書いてある。
「マジ凹むわ」
唐突に家にこんなもんが送りつけられたら誰だって萎えるだろ。
「略式裁判て何だよ…お先真っ暗」
先が真っ暗なのは、これが有っても無くても同じだけどな。
「つうか場所変えようぜ、俺腹減ったわ」
コーヒーはもういらねぇ。
お互い法には何の知識も無いのに等しい。
誰かに聞く他なかった。
俺は奴しかいないと思い、恐らく俺の友人の中で最も法の知識に長けているYに電話した。
ただ奴はリアルに忙しいので、こんな事で相談するのもちょっと申し訳なかった。
そんな気持ちが通じてか、Yは電話に出なかった。
「じゃあとりあえずここで」
ブラック企業と名高い居酒屋にした。
電話は後で掛かって来るだろ。
Uはこの封書の事が頭をもたげているので、
「何も喉通らねぇよ」
と言っていたが、俺はとにかく焼きうどんが食いたくて仕方なかった。
二人で店に入ると、真奥の狭い所に通された。
回りは全員クソ大学生。
男女入り乱れてよろしくやってやがる。
「俺は年上好きだから!」
「いいからこっち来いよ!」
隣の会話が障る。
ったく、いっつもこんなコントラストだな。
届いた書類を広げ見ながら、奴はかなり凹んでいた。
俺もうまい具合に意見してやりたいが、知識が無いので無難な事すら言えない。
こんな事で警察に捕まっちまうような事はないと思うが、それを言い切る事が出来ない。
「待てよ、あの人に聞いてみるか」
もう一人心当たりがあった。
昔のバイト先で仲良くなった年上のTさんを思い出した。
確か彼も法学部院生だった。
「かなり久々だけど、連絡してみるか」
電話を鳴らした。
「もしもしぃ」
相変わらずのサバサバした声が聞こえる。
「あ、ベニーですけどお久しぶりです」
「…あ~はいはい。お前か、久しぶり。どうしたの?」
「いや、実は相談がありましてですね…」
俺はおおまかな流れを説いた。
「今隣に当事者がいるんで、電話変わって話し聞いてやっていただけますかね」
「あっ、良いよ」
俺はUに電話を渡した。
躍起になって相談をしている。
半ばからメモまでとり出した。
…
表情が明るくなった。
「俺大丈夫っぽいわ」
さっきまで会社クビになるかも知れないとか言って恐れおののいていた奴が、今は見違えて元気になっている。
書類で刑法175条に触れて煽っているが、興味がある人間がいるなら読んで貰っても良いけど、俺達にはそんなの関係ない。
書類に載った名前の弁護士は実際には存在せず、これはこすい詐欺だという事が結論になった。
状況を大きく捉えてしまう程頭が熱を持っちゃってる時は、そういう事を冷静に諭してくれる人が必要であると勉強になった。
ただこうして騙くらかそうと企むクズどもには、すべからく制裁を望むがね。
ひとまずこれで解決となったわけだが、俺はここで
「なんで先ず俺に電話してきた?」
と、イヤらしく尋ねてみた。
「お前なら何とかしてくれそうだと思ったから」
Uはそう答えた。
そりゃ酒の肴になるなぁ。
Tさんに感謝しつつ、テンションが裏返った勢いでUが隣の四人組に声を掛けた。
「飲み直さない?」
飲み直すって、既に楽しく飲んでる奴等に知らない野郎が声かけたって、うまくいく訳ないんだよねぇ。
だから二人で飲み直したけど。
急な呼び出しから帰ってく。
とりあえず奴もホッとなれたみたいで、甲斐もあったな。
何だか探偵みたいな一日だったじゃねぇか。
まぁこんな間抜けな探偵はいねぇだろうけどよ、俺がやったらこんな感じだわな。
紫煙を鼻から吹き出しながら、自分の立ち会った場面を劇画に見立てて笑った。