「富士の樹海へ」第二十八話 | My name is Benny

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しがない暇潰し

道の駅には、まだほとんど人がいなかった。
ハイエースは駐車場の隅に停まっている。
ナカタは溜め息を吐いた。
「旅館に戻らねぇと。気が重いわ。また女将さんがいい人なんだよ。」
道の駅の駐車場で一服しながら安い談話をしている。
「先ずそのYシャツがマズいな、そのまんま人前に出たらマズい」
スズキが言った。
ナカタは道の駅を見つめる。
ここってTシャツ売ってんのかな。
「買ってきてくれない?」
ナカタはスズキに尋ねる。
「Tシャツ買って着替えたとこで言い訳が無いとね」
スズキの返事で思い当たる。
それなんだよな。
正直夜遊びも出来ない立地だし、そこに樹海がありゃ、夜中の外出は自殺に繋げられちまう。
何にも思い浮かばない。
何時何時も諸問題に対して何の対策も出来ない自前の腐れた脳ミソが心底憎らしく思える。
「金は払ったのか?」
「間違いなく置いてきたよ」
「じゃあもう電話で済ませちまえよ。もうそれなら言い訳なんか要らねぇから、これから元気に生きていきますって、また来ますって、それだけ言えば良いじゃねぇか!」
スズキはやっつけるように言った。
言い訳も糞も出来ねぇなら、もう他にねぇじゃん。
「そうだな、それしかないな」
ナカタは旅館の電話番号を手繰ろうとするが、分かるわけがなかった。
「電話番号知らないんだけど」
「あのさぁ、104って知ってるか?そこで聞いたら良いじゃねぇか」
こいつホントに何にも知らないのかよ。
スズキは舌打ちしていた。
ナカタは車外に降りて104にダイヤルした。
「あの、鳴沢村の旅館の番号を知りたいんですけど」
「候補が三ヶ所御座いますが」
あ~マジかよ、めんどくせぇな。
「あ、分かりました」
ナカタは通話を切った。
「俺やっぱりちょっと行ってくるわ」
ナカタは車内のスズキに告げる。
「え?」
まだ薬残ってんじゃねぇだろうなぁ。
もう知らん。
スズキはシートを倒して仮眠の姿勢をとった。

ナカタは昨日立ち寄った喫茶店の前まで来た。
もう二度と来ねぇから今更どう見られてもと開き直った。
看板を見て、旅館の名前をしっかり把握する。
早速104を経由して、旅館に電話をかけた。
目の前に在るんだし、ここまで来たら直接とも思ったが、女将と顔を合わせたら、きっと何にも言えなくなりそうだから。
「お電話ありがとうございます」
女将の声だった。
「あ、すみません。昨日から御世話になっていたナカ…ムラですけど、事情があってこのまま出先から帰らなくちゃならないもので、お金はお部屋に置いてますんで、ホントに申し訳無いんですけど…」
言い訳ってのは、重ねる程に聞き心地が悪くなるな。
てめぇが言うのでナカタは痛感していた。
「ナカムラさん、本当に大丈夫なのね?」
女将の力込められた言葉が痛く響く。
「はい、必ずまた伺います」
「分かりました。必ずいらしてくださいね。」
すんげぇ罪悪感だわ。
ナカタは心がヒリヒリした。
「女将さん」
思わずお母さんと言いそうになった自分が恥ずかしくなる。
「あの、カキフライご馳走でした!」
旅館の前でナカタは大声でそう叫ぶと、女将の返事も聞かずに電話を切って、道の駅まで駆け出した。
俺何やってんだよ、絶対ただの頭の弱い奴だと思われてるよ。
ナカタは走りながら思った。
生まれ変わったつもりが、自己嫌悪は以前と変わっていなかった。



※上記一切は創作につきフィクションです。